書に耽る猿たち

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『淳子のてっぺん』唯川恵/山屋にとって登山は生きること

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『淳子のてっぺん』唯川恵

幻冬舎文庫  2020.2.2読了

 

性で初めてエベレストに登頂した登山家、田部井淳子さんの生涯を元にした小説だ。私は登山といえる登山はしたことがない。小中学生の時に林間学校で山に登ったり、散策がてら高尾山や熊野古道を登った位である。いつか富士山の御来光を見てみたいと思ってはいるけれど、この歳になると登頂出来るほどの体力気力があるかどうか。

子は幼い頃から登山の魅力に取り憑かれ、社会人になってから男だらけの山岳部に入部したり、女性同士でタッグを組み登り続けた。今でこそ女性の登山家は多いが、昭和初期は何をするにも女性に偏見があり、認めてもらうのに相当な苦労があったと思う。「女に出来るはずがない」「結局男性の力を借りるんだろう」こんな言葉ばかり、そして女性の幸せは結婚して子供を産むことと決めつけられていたような時代だ。

子は女性だけのメンバーでアンナプルナ登頂、そしてエベレスト登頂をも成功させる。そこに至るまでは多くの苦難と葛藤、女性ならではの諸問題があったが、「出来るんだ」「登りたい」という信念が勝った。登頂した時の眺めは景色だけではない爽快さと感動があるのだ。

れにしても、淳子と結婚した正之はなんと理解のある素晴らしい人物であることか。彼がいたからこそ、淳子は自由にのびのびと大好きな山に登り続けることが出来たのだ。淳子は自分が命を掛けてもやりたいこと(登山)を見つけられ、そして理解ある素敵なパートナーに出会い、幸せな人生だったと思う。

り合いに登山好きな人は何人かいる。小説にも何度も出てきたが、登山愛好家のことを「山屋(やまや)」と呼ぶことすら知らなかった。数年前から登山女子、山ガールなんて言葉も流行っている。読み終えて、なんだか私も山登りしたくなってきた。確かに、頂上に到達した時の晴れやかで清々しい気持ちは、生きることそのものの喜びを噛み締められる気がする。

川さんといえば、恋愛小説の名手と謳われ、私も今回恋愛小説以外の題材で読んだのは初めてだった。物足りなく感じてしまうほど、いつも通りすらすらと読みやすい。登山を題材にした小説であれば、井上靖さんの『氷壁』を読んでみたい。あとは今日たまたま書店で見かけたマーセル・セローさんの『極北』が気になった。村上春樹さんが訳していることもそそられる。