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『ゴリラの森、言葉の海』山極寿一 小川洋子|因果という考えを持たないゴリラ

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『ゴリラの森、言葉の海』山極寿一 小川洋子

新潮文庫 2021.11.16読了

 

長類学者の山極寿一(やまぎわじゅいち)さんと、小説家小川洋子さんの対談集である。なんと、ゴリラにまつわるもの。猿好きとしてはもちろんたまらない。山極先生は、ゴリラ研究の第一人者であり私も尊敬してやまない存在。小川さんも繊細で美しい文章を奏でる好きな小説家の1人である。

極さんはゴリラのことを「人間の模範であるということ、人間の本当の姿を映し出すことから、人間の鏡である」という。小川さんは「言葉で代用できない部分に実は真実が隠れている。言葉によらない共感を小説に書かなくちゃいけない」と考えている。

リラの生態を観察して話しているのに、人間の生き方や営み、これまでの人類の歴史をみているかのようだった。似ている部分もあれば違う部分もある。なかでも、人間は因果をとても大切にするが、ゴリラは過去のことを考えないというところが印象深い。

リラのオスは、自分の子ではない子供ゴリラを殺すことがあり、その後その死んだゴリラの母とつがいになることもあるという。人間では信じられないが、ゴリラは「以前こうだったからこうなる」という因果の考えがなく、常に未来しか考えないというのだ。ゴリラにも感情はあるのに、それは人間とは違った形のもの。

談であるから、会話文になっておりとても読みやすかった。お2人が語らう姿が浮かんでくる。言葉を持たずにゴリラと分かち合う山極さん、言葉をして小説をつくる小川さん。対極にいるような関係だけれど、どこかで共通するような、触れ合う部分がある。そして、こういった対談は、同業や似通った者同士でないほうがおもしろいと思った。それぞれの個性や感性がより引き立つのだ。

れでも、やはり前書き(この作品では「はじめに」)の小川さんの洗練された文章にうっとりするし、また後書き(「おわりに」)の山極さんの自然と動物愛に溢れた文章を読むと安心する。私はやはり会話文よりも読まれるために推敲された文章が好きなんだなと感じた。

極さんは最愛の友をゴリラと言っている。ゴリラの気持ちもわかり、ゴリラからも理解されているのだ。そんな山極さんが語ること、そして書かれた文章の端々には、おおらかで人を包み込むような愛に溢れていると感じた。まるでゴリラに守られているような安心感だ。

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