書に耽る猿たち

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『メキシカン・ゴシック』シルヴィア・モレノ=ガルシア|館で起こる怪奇世界にようこそ

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『メキシカン・ゴシック』シルヴィア・モレノ=ガルシア 青木純子/訳 ★

早川書房 2022.5.9読了

 

シック小説の定義はよくわからないけど、とにかく最初から最後までとてもおもしろく読めた。ストーリー性と重厚さを併せ持つ作品には最近巡り合っていなかったから満足出来た。

キシコシティで自由奔放に優雅な生活を謳歌していた22歳のノエミは、ダンスパーティの最中に父親から呼び出しをくらう。1年前に英国人ヴァージルのところに嫁いだいとこのカタリーナから奇妙な手紙が届いたとのことで様子を確かめに行って欲しいと言われる。かくしてノエミは山の斜面の街にあるお屋敷を訪れることになったのだー。

台はもちろんヤカタ!である。霧に覆われた高台にある曰く付きの館、まさに『嵐が丘』のイメージだ。カタリーナが住む館はハイ・プレイス〈山頂御殿〉と呼ばれている。こういうおどろおどろしい館には必ずといっていいほど図書室が存在する。革表紙のカビの臭いがする古書が余計に恐怖を感じるお膳立てをする。

シック小説につきものの怪奇めいた幽霊譚や、夜毎見る夢、ユングの夢診断など、ホラー要素・ミステリ要素てんこ盛りで予想通りの作品であった。ただ、科学的・化学的要素も入り組んでいたためこれが物語全体を引き締めている気がする。

中少し怪奇的すぎて、また少女的に感じるところもあった。それにさほど怖くは感じなかった。それでも全体としてストーリー性が豊かで頁を捲る手が止まらなかった。メインはカタリーナを助け出すことが目的であるが、ノエミのロマンスにドキドキしたし、ノエミが果敢に立ち向かう姿に惚れ惚れした。

頭に重厚であると記載したが、この小説は実はかなり読みやすい。それは主人公ノエミが普通の(現代にもいそうな)若い女性だからだろう。都会に住む溌剌とした女性。裕福な家庭に産まれた彼女は我が儘なところもあるが、この中で唯一普通の感性を持つというか侵されていないところが、読者が一緒になってこの世界に没頭できるのだ。1950年代という時代設定なのにも関わらず現代的に感じた。

シック小説の金字塔といえば、エミリー・ブロンテ著『嵐が丘』、シャーロット・ブロンテ著『ジェイン・エア』、ダフネ・ドゥ・モーリア著『レベッカ』など。かなり前に読んでいるがあまり覚えていないから再読しようかと思っている。昨年末にゴシックミステリ大作を買って積読の本もあるしなぁ。やれやれ、また本の連鎖にハマってしまい困りものだ。。。

者の解説によると、著者はラブクラフティアンラブクラフトファン・信者のことかしら)のようで、まだラブクラフト作品未読な私にとっては気になりすぎてたまらん。