書に耽る猿たち

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『荒野の呼び声』ジャック・ロンドン/野性にもどる

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『荒野の呼び声』ジャック・ロンドン 海保眞夫/訳

岩波文庫 2020.6.9読了

 

リソン・フォードさん主演で映画化された『野性の呼び声』の原作である。ジャック・ロンドン氏といえば動物を題材にした本を書く人、というイメージだ。彼の作品を読むのは初めて。

れ、シェパードとセントバーナードの混血犬バックが主人公なんだけど、犬の視点で物語が進むとは思わなかった。てっきり、ハリソン・フォードが演じる人間(たぶん作中のジョン)が主役で、相棒が犬という設定かと思っていた。だって、一文目から「バックは新聞を読まなかった」で始まるのだ。新聞を読む犬いるの?字を読める犬いるの?

かし、私が人間が主役と当然ながら思っていることが間違い、人間の傲慢さであって、小説でも『吾輩は猫である』の吾輩やこの前読んだ田中慎弥さんの『地に這うものの記録』のネズミ、ポールだって動物が主役だった。思えば、子供の頃に読んだ本は人間以外が主役なことが多かった気がする。相手の立場だったらどう思うのか、という大事なことを子供の頃に教わる。相手とは必ずしも人間だけではない。動物も植物も、たとえ生きていない静物でも。

つの間にか動物や他の生物が脇役になり、人間が主役で世界を闊歩しているように自分が思い込んでいたことに少し反省。でも、人間が野性にかえったらどうなるのだろう?類人猿に戻るのかしら、なんて考えたり。

い犬だったバックがさわられ、ソリ犬となり、過酷な労働に耐え抜きながら、徐々に野性に戻るという物語。予想もできる展開で、まぁこんなものか、と読み進めていたのだけど、最終章「呼び声はひびく」には圧倒され感動を覚えたほどだ。大自然雄大さと恐ろしさ、人間のちっぽけさを感じた。

画『猿の惑星』を観て感じた気持ちに似ている。野性の本性を取り戻しつつあるのだけど、人間への愛情も忘れられない、それがバックにもわかっているようないないような、そして、それを観る(読む)私たちに密かな切なさと哀れみを呼び起こす。