『猫と庄造と二人のおんな』谷崎潤一郎
新潮社[新潮文庫] 2023.8.13読了
昭和8年に『春琴抄』を書いた谷崎潤一郎さんは翌年にこの短編を刊行した。文庫本で150頁にも満たないこの小説はさらりと読み終えられるので、谷崎文学をこれから読もうとしている人にもおすすめだ。
飼い猫を前妻に譲ってしまうか否か。猫を人間よりも大事にする庄造のせいで、女たち(現在の妻の福子と前妻の品子)が猫に嫉妬している。そんな内輪揉めのような、ある意味どうでもいいような話なのだが、これが谷崎さんにかかると、人間の関係性を非常に上手く捉えた作品が出来上がる。
この作品では、猫、庄造、福子、品子の4人(厳密には1匹と3人)が主な登場人物である。リリーという猫が最上位にいる。庄造は2人の女よりも付き合いが長いリリーへの愛情が深い。猫は人間の言葉を解さないという理由によって、また人間は通俗的なために猫を愛でる。
人間であれ猫であれ犬であれ、一つの対象のために身を滅ぼすことができれば、それが一番幸福なのであろうと解説で解いている。この小説では身を滅ぼすまでの結末にはなっていないが、もし長編であれば生死までも揺るがすような展開にしたであろう。
それにしても、猫ちゃんは一体何を考えているのか…。人間をどう思っているのだろう。吾輩は猫である然り…。ひょっとしたら何も考えていない可能性もあるのだけれど、猫に翻弄される人間たちの行動はある意味滑稽である。その人間の滑稽さになおのこと猫は嘲笑っているかもしれない。
実はチリ人作家の大作(単行本上下2巻)を現在読んでいる途中なのだが、夏季休暇中の美術館巡りのため重い本を携帯するのが憚られて、このうっすい文庫本を持ち運んだ次第だ。小説の併読は実は得意ではないのだけれど、全く異なる設定、国内と海外などジャンルを変えればそんなにごちゃごちゃにならないもんだな。