書に耽る猿たち

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『サンセット・パーク』ポール・オースター/過去に決着をつけていく群像劇

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『サンセット・パーク』ポール・オースター 柴田元幸/訳

新潮社 2020.6.11読了

 

ューヨーク・ブルックリンにあるサンセット・パーク(実在する地名らしい)のある廃屋に、4人の男女が不法滞在する。今までのオースターさんの小説と何か違うなと思っていたら(まだこれで5作めではあるが…)、群像劇になっているのだ。この空き家に集う若者を中心として章ごとに視点が変わるのだが、語り手はおそらく著者であり「彼」または「彼女」と呼ぶ。

別な事件やあっという展開もほとんどない。日々の移ろいとともに、どちらかと言えば背けていた過去に向き合い、それぞれが自分なりの決着をつけていく物語だ。一番登場する機会が多いマイルズ・ヘラーに至っては、親子のあり方を問う物語とも言える。

キドキしたり、頁をめくる手が止まらないわけではないのに、読み心地が良いのがオースターさんの作品だ。ホッとする。例えるなら、カズオ・イシグロさんやヘルマン・ヘッセさんの作品を読んでいるよう。もちろん村上春樹さんにも。

りわけ若者の、特に女性の細かな心理が巧みに表現されているように感じる。さらに女性視点の章では、スピード感と切羽詰まった装いがある。何故だろう?女性って、急に話題を変えたり早口になることがあるからそのせいか。文体をわずかに変えているのかもしれない。

ースターさん(と訳者の柴田元幸さんの最強タッグ)の小説、去年末からこの世界に浸ることの喜びを見出せて、少しづつ読み始めている。ついに単行本にまで手を出してしまった!ジャケットもポップな切り絵調でニューヨーク感が出ている。今月、新潮文庫から新刊『ブルックリン・フォリーズ』が刊行されたからこちらも早く読みたい。

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