書に耽る猿たち

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『マーティン・イーデン』ジャック・ロンドン|富と名声で他人を判断する

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『マーティン・イーデン』ジャック・ロンドン 辻井栄滋/訳

白水社 2021.2.20読了

 

ャック・ロンドン氏の作品で最も有名なのは『野性(荒野)の呼び声』だろう。私も去年読み、大自然雄大さと生きるエネルギーを堪能した。この『マーティン・イーデン』は自伝的小説と言われており、ロンドンさんの作家になるまでの道のりが中心に描かれている青春小説だ。

乗りのマーティンは、ある日上流階級の娘ルースと出逢う。彼女の美貌と佇まい、知性に惹かれたマーティンは、ルースに釣り合う男性になるために知性を磨き作家になる決心をする。それにしても、お金持ちの家柄の女性と貧しい男性が恋に落ちるという鉄壁の展開。どうして逆はほとんどないのだろうか…。

は盲目という時には、普通は周りが見えなくなり突っ走ってしまうことが多い。このマーティンについては、盲目といっても自身を高めるための勉学と文学への想いに繋がっている。知識欲と教育への渇望から寝る時間も惜しみひたすら独学で学んでいく。

ーティンの学びへの熱望とルースへの想いが文章から弾けるようで、圧倒的なエネルギーを感じた。自由で、獣のようで、自信満々なマーティン。ジェントルマンになっておとなしくなったら、彼の魅力が半減してつまらなくなるんじゃないかと思いながら読み進めた。

んなものを犠牲にして、書いて書いて書きまくって、雑誌や新聞社に送っても芽を出さない作品群。これを読むと、一つの作品として世に認められるということはいかに難しいのかということを改めて感じる。

ースとも別れ、親友をも亡くし、打ちひしがれたマーティンにようやく日の目が訪れる。原稿料がどんどん入り有名作家となっていくのだ。ついにはお金持ちになる。そんな彼に群がる人たち。マーティンは「自分は昔から変わっていないマーティン・イーデンなのに、どうしてこうも反応が違うのか」と悩み続ける。別れたはずのルースまでやってくる。

間とは、富と名声で他人を判断する。特に上流階級の人にその傾向が見られ、ロンドンさんはそれを痛烈に批判している。結末がどうなったかが気になる方は、この小説を読むか、実際のジャック・ロンドンさんの生涯を調べてみて欲しい。

伝や自伝小説、評伝はどうしてこうもおもしろいのだろう。1人の人間にスポットを当ててその人の人生を一緒に辿ることで、自身も成長したように感じるのだろうか。その人が作家である場合には、本人が書く作品の見方も変わってくる。

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