書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『ゴリラ裁判の日』須藤古都離|人間と動物の違い、人権とは何か

f:id:honzaru:20230404070510j:image

『ゴリラ裁判の日』須藤古都離

講談社 2023.4.5読了

 

年のメフィスト賞受賞作。講談社が主催するメフィスト賞はちょっと変わった風合いというか、わりあい突飛な作品が選ばれるイメージがある。エンタメ寄りで通が好みそうな感じ。私が手に取ったのはこの賞がどうとかではなく、タイトルに「ゴリラ」とあったから。一応猿の仲間であるゴリラさん、猿好きにとってはもはやそれだけの理由である。

 

物園に遊びに来ていたある男の子が、母親が目を離した隙にゴリラがいる柵の中に落ちてしまい、そこにいたオスゴリラに振り回されてしまう。男の子の命を守ろうと、動物園側はやむなくゴリラを射殺する。あぁ、これは実際に起きたあの事件を題材にしているんだな。

 

の殺されたオスゴリラの妻が、この小説の主人公であるローザである。カメルーンのジャングルで生まれたローランドゴリラのローザは、なんと人間と同じように言葉を話すことができる。ジャングルの近くにある猿の研究所で、小さな頃から研究者とともに言葉を覚えていった。全員ではないが、人間にいいように操られてしまうローザ。読んでいてそれがわかってしまうから、もしかしたら最後はローザは辛い思いをしてしまうんじゃないかと、心配になりながら読み進める。

 

葉を操るローザは多くの人の助け(と宣伝効果を狙う企業の思惑)があってアメリカに渡り、動物園で人気者となる。そこで家族を作るのだが、夫が無惨にも殺されたため、人間と同じように警察を呼び、裁判を起こすという、ちょっと現実離れしたストーリー。

 

動物は人間よりも劣っている。

人の命は動物に優先される。

この考えが根底にあるから、ゴリラよりも人間の命が優先され銃殺された。だけど、人間と動物の違いってなんだろう?ゴリラは人間よりも強いから、というだけで殺されてしまうなら、片方が銃を持つ人間同士がいた時に銃を持った人が何の理由もなく殺されるのと同じではないだろうか。

 

間と動物の違い、人権とは何か、ひいては自分とは何なのか、そんなことを強く考えさせられる。とても読みやすいのに、深いメッセージが込められている。人間であるリリーとは、動物との垣根を超えた友情が育まれ、そこにはムツゴロウさんじゃないけど大きな愛がある。

 

者の須藤古都離さんは初めて読む作家さんだが、これがデビュー作である。本人としては3作目の執筆となるようだが、物語としてとても上手く、何より読みやすい。そして、ゴリラ研究の世界的な権威である山極寿一先生に監修をお願いしたという。作中では大好きな映画『猿の惑星』の話にも触れられていたし、この本をきっかけにしてゴリラブーム、猿ブーム、来い!

 

供向けの本や漫画では、動物やら虫やらが擬人化されていることが多い。しかしいつの頃からかそういう作品を読まなくなっているし、実際に大人が読む本に多くない。大人になるにつれ、擬人化は嘘っぽい、あり得ないと知ってしまうからなのか。でも、人間同士ですら相手のことはわからないんだから、動物たちのことはもっと神秘だ。つまり、こんな風に人間みたく感じている可能性はあるということ。本当に、私たちはもっと動物たちの気持ちを考えるべきなのだ。

honzaru.hatenablog.com

honzaru.hatenablog.com