『ファントム・ピークス』北林一光
角川文庫 2020.7.9読了
北林一光(いっこう)さんは、その才能を惜しまれつつ45歳という若さで癌のため亡くなられた。映画プロデューサーを経て執筆活動に入った方で、本作は松本清張賞の最終選考まで残り、非常に評価されたようだ。角川文庫の"宮部みゆきさん絶賛"という帯(例の文庫まるごと包む角川文庫の帯!今回の写真では外して撮影)の文句に目が留まり、読んでみた。どうやら角川書店の営業の間では「ファン・ピー」と呼ばれているらしい。
長野県安曇野、北アルプスの山で行方不明になった妻の頭蓋骨が遭難場所からかなり離れたところで見つかった。不審に思った夫の周平は独自に調査を進める。そこで第二、第三の事件が起こる。ファントム・ピークス ー幻の山ー、一体何が起きているのだろうか…。
スピーディーで目まぐるしく動く展開は読者を飽きさせない。無駄なものが削ぎ落とされている文章で、どちらかと言えば文学作品というよりもエンタメ作品である。場面の移り変わる様が映像として想像出来るようで、さすが元映画プロデューサーだけのことがある。なんとなく太田愛さんの作品を読んだ時の感覚に似ている。
こういった自然界を相手取った作品を描く人は、都会の繁雑で無機質な生活から逃れたい気持ちが心情にあり、本来は自然に身を置きたい人なんだろうと思う。北林さんは、山々や海、植物、野生動物を愛してやまない方だったのだろう。
角川文庫の担当者が、10年以上前の作品を改めて世に送り出した。これはとても意義のあることだ。前に何かで、執筆されてから10年以上経った本しか読まない方がいると読んだことがある。書店に並ぶ本は、実はほとんどが新刊ばかりで、10年以上前の作品は多くはないらしい。
逆に言うと、優れた書物でないと残らない。でも、これはほとんどリアル書店に限ることだろう。ネットでは、廃版にならない限り中古でよければおそらく存在する。リアル書店で出版し続けることって大変だよなぁ、としみじみ感じ入る。