書に耽る猿たち

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『シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々』ジェレミー・マーサー/本に囲まれて暮らす

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シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々』ジェレミー・マーサー 市川恵理/訳

河出文庫 2020.7.29読了

 

ランス・パリにある「シェイクスピア&カンパニー書店」は本好きな人の聖地である。名だたる作家たちが集い、生活してきた場所だ。とは言っても私が知ったのもここ1年ほど前だ。雑誌か何かで目にしたのと、たまたま誰かのブログに載っていたのを読んだ。この書店についての本があるのも知り、読みたいなと思っていた矢先に、ちょうど文庫化されていた。

シェイクスピア&カンパニー書店は、シルヴィア・ビーチさんという方が作った。ヘミングウェイフィッツジェラルドらが出入りし、ジョイスの『ユリシーズ』を最初に出版した。ヘミングウェイの『移動祝祭日』の冒頭に登場する書店がまさしくこの書店らしい。この作品は昔読んだのに、全く覚えていない…。

の作品の舞台は二代目シェイクスピア&カンパニー書店だ。アメリカ人ジョージ・ホイットマンが、敬愛するビーチさんの死後、元々持っていた自分の書店の名前をシェイクスピア…に改めたのである。本書の著者ジェレミー・マーサーさんは、人生に絶望していた時、ひょんなことからこの書店に転がり込み、貴重な体験をし、その後の人生を変えた。書店で暮らす日々を懐かしみ、敬い、愛おしむドキュメンタリーだ。

の書店はただの本屋ではない。図書館や談話室(読書会が開かれる)が併設されている店はまれにあるが、なんと貧しい物書きや旅の流れ者が泊まれるようになっているのだ。それも店主ジョージがベットや食事をかいがいしく提供してくれる。こんな本屋さんが実際に成り立っていることに驚きだ。もちろん、宿借りする人は、代わりに書店の仕事をしたり、ジョージからの頼み事を引き受ける。

者は元犯罪記者だったこともあり(現在もジャーナリスト)、流れるような文章でとても読みやすい。書店での微笑ましいエピソードや、恋愛、友情が面白おかしく書かれ、何より本への愛情に溢れている。際立つのはやはり、書店主のジョージだ。彼が主人公と言ってもいい。当時85歳という年齢にも関わらず、子供のような心で人を惹きつけてやまない魅力に溢れる人物だ。

その日最初の客を迎えると、僕はあらためて、人間に備わった善を信じるジョージの姿勢に心を打たれた。(133頁)

店は今や毎年数百という店舗が潰れている。リアル書店に本を買いに行く人が減り、ネットで何でも注文できるからだ。でも、このように味のある書店もある。書店に訪れた人が喜ぶ書店はたぶん他にも数多く存在する。やはり人が何かを感じてエネルギーにするのは、生身の人からだと思う。だから、書店を応援したい。

ョージは2011年に亡くなり、現在のシェイクスピア&カンパニー書店は、彼の娘が店主になっている。隣にカフェも併設されたそう。トートバッグを始めとして、お洒落なグッズも売っているようだ。いつか行ってみたいなぁ。