書に耽る猿たち

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『ゴリオ爺さん』オノレ・ド・バルザック|すべてが真実なのである

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ゴリオ爺さんオノレ・ド・バルザック 中村佳子/訳 ★

光文社[光文社古典新訳文庫] 2023.8.24読了

 

は過去にこの作品を読んだとき、断念した経験がある。海外文学にまだ心酔していなく、訳された文章にまだ慣れていなかったこともあるかもしれない。確か100頁に満たないうちに投げ出したのだ。でも、去年『ラブイユーズ』を読んで、バルザックの才能とおもしろさに飛びあがりそうになるほど驚いた。

 

者の中村佳子さんによると、光文社古典新訳文庫に新訳で刊行することが決まったとき、編集の方から「序盤の読みにくい部分をわかりやすくしてほしい」と注文があったそう。難題だと思った中村さんだが、この冒頭こそがこの小説の肝だと思っていたから逆に燃えたそうだ。いや、私もなんならこの冒頭が一番好きかもしれない。物語の舞台、登場人物紹介、ドラマの背景が描かれているだけで、ほとんどの作品に存在する部分なのに、どうしてこんなにわくわくした気持ちで読めるんだろう。自分が昔何故ここで断念したのかまったくもって意味不明。

 

リオ爺さんは、2人の娘の幸せだけを願い自らを犠牲にする。善良なこの老人は娘に身分違いの結婚をさせてしまい金を貢いでしまうのだ。善良さといえばストウ著『アンクル・トムの小屋』のトムを思い出す。娘への無償の愛。愛しすぎたが故にこのような悲劇を生むとは、いったい人生とはなんたるものよ。

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イトルは『ゴリオ爺さん』だが、実はヴォケール館に住むラスティニャックが主役といえる。田舎貴族の出で家族の期待を背負う彼は、社交界に出て名を立てることを夢見る。同じ下宿屋に住むヴォートランに、「野心」があるなら悪事をしないと大成しないとそそのかされる。

 

の中お金が全て、とは思いたくないけれど、たいていのことはお金で解決するんだよなぁ。健康、そしてお金。これがないと土台がまずない。ヴォートランは悪役になってはいるけれど、彼がいたからこそ学ぶべきものはあった。

 

はりバルザック最高!こんなの書かれちゃったら、他のほとんどの作家が霞んでしまう…。いやいやそれは言い過ぎだけれども、なんか読んでいるだけで火照ってくる。冒頭でバルザック自身が次のように言っている。本当に、真実だからこんなに惹かれて魂を揺さぶられるのだ。

このドラマはただの作り話でもなければ、小説でもないのである。「すべてが真実」なのであって、真を突きすぎて、誰もが、どこかしらに自分に通じるものを見つけることになるだろう。(9頁)

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