『流浪の月』凪良ゆう
東京創元社 2020.8.8読了
凪良ゆうさんは、もともとBL(ボーイズラブ)小説を書いていた方。あんまり合わないだろうなと思い、本作は今年の本屋大賞受賞作にも関わらず読むつもりはなかった。でも、書店にいつまでもこうも積み上げられていると、気になってしまうのが、書店通いが趣味の本猿。読まず嫌いだった須賀しのぶさんも結構面白かったしなぁと。
読んでいる人も多くいると思うが、この作品は、9歳の時に19歳の大学生文(ふみ)に誘拐された(と事件として世間で扱われる)更紗(さらさ)が、時を経て文と再会する話だ。小児性愛者と疑われる文は決して悪い人ではなく、むしろ進んで一緒にいたいと思う更紗だった。昔も今も。世間の事実は決して真実ではない。更紗は「善意」によって苦しめられる。
ラノベ感覚でさらっと読みやすく、それでも重いテーマで心にずしんと来る。特に、文視点で語られる「彼のはなし」からは読む速度が加速する。あぁ、なんとも痛々しい、苦しいなと感じながら。多分、更紗よりも文のほうがきついだろうなと。
読んで感じたこと。誰かを好きになること、一緒にいたいという感情、心のバランスを保つ術は、人によって全く異なるということ。周りからみたら異常で信じられない事実でも、当人たちにしかわからないことがたくさんあり、それが真実であること。マスコミやTV、ネットを鵜呑みにしてはいけない、それを見るだけで誰かを苦しめ、生きにくくさせてしまっているのだということ。
なるほど、今の世の中はこういう小説が流行るんだなと妙に納得した。書店員が選ぶ「本屋大賞」は、作家や専門家が選ぶ多くの文学賞と違って、どちらかというと一般読者の目線に近い。つまり、優れた小説というよりも、誰にでも親しみやすく今流行っている小説が選ばれる。
関係ないけれど、ロリコン(ロリータコンプレックス)という言葉を生み出した、ウラジーミル・ナボコフ氏の『ロリータ』が改めてすごい本だったんだ、世界の名作だと感じ入った。今でもあの衝撃を忘れられない。さすがにこの『流浪の月』が世界でヒットするとは思えないもんなぁ。きっと、現代日本ならではの作品だと思う。今の日本人は多分精神的に弱い。だから、更紗や文を自分に投影出来る。そして、誰か1人でも自分を理解してくれる人がいると思えることで、安心出来るのだ。