書に耽る猿たち

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『本にだって雄と雌があります』小田雅久仁|大阪弁による軽妙な語りと蘊蓄を楽しむ

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『本にだって雄と雌があります』小田雅久仁

新潮社[新潮文庫] 2022.8.6読了

 

賞は逃したけれど本屋大賞にノミネートされた『残月記』は、あまり体験したことのない読後感であり、今でも印象深く心に残っている。この小説は、小田雅久仁さんが2012年に刊行した作品である。

泉光さんの作風に似てる!というか、夏目漱石さん作品をオマージュして書いた奥泉さん的な感じ。ぐだぐだと、こりゃ長くなりそうだなぁと最初は思いながら読み進めていたが、あれよあれよと言う間にいつの間にか読み終えていた。多分、本好きなら沼ってしまう類の本だ。

にも雄と雌があり結婚して子供が産まれて本はどんどん増えていく、というような話。ある一族の系譜を辿りながら、本にまつわるあれこれが語られる。おそらく、小田さんの本好きが高じて小説にしてしまったような感じかなぁ。ストーリーというよりも大阪弁による軽妙な語りと蘊蓄を楽しむ読書だった。

り手は深井博(ふかいひろし)で、息子恵太郎に話しかけている。博の祖父で学者である輿次郎(よじろう)の幻書との関わりを中心にして色々なことがユーモアたっぷりに語られるのだが、やはり輿次郎と切っても切れない関係にある鶴山釈苦利(つるやましゃっくり)の「百年しゃっくり」の話はおもしろすぎる。

の作品には実在する小説がたくさん出てくる。最初の方にエンデ著『はてしない物語』が登場するが、これはやっぱり鉄板。あかがね色の布カバーにくるまれた本は、たいていの本好きにとっては宝物のようなもの。私がちゃんと読んだのは大人になってからだけど、いまだに大切な本の一つだ。

『残月記』とは全く毛色の異なる小説ではあるけれど、作中作にある、夢のような、そして『世にも奇妙な物語』のような幻想的なぞくぞくするところは少し似ていた。やはり根本にある怪奇的、ファンタジー的要素は小田さんの真髄なのかもしれない。

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