書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『本物の読書家』乗代雄介|文学観と小説蘊蓄|単行本を読む前に文庫化されてしまった

f:id:honzaru:20221111072819j:image

『本物の読書家』乗代雄介

講談社 2022.11.12読了

 

書家に本物も偽物もあるのだろうか。まぁ、読書家を気取っているニセモノはいるかもしれない。そもそも「読書家」は「家」がつくのに個人の趣味が高じただけになっているけれど、他の「家」がつく「建築家」「音楽家」やらはその道のプロを指す言葉になる。

はこれらの「家(か)」の意味は異なり、「読書家」につく「家」のほうは、そのことに固執している、凝っている、性向にあるの意味である(努力家、愛妻家など)。「建築家」の「家」のほうは、そのことに専門性をもって従事している人の意味だ。日本語は難しくてやっかいだ。だからこそ趣があって美しい。

 

叔父とはどんな血縁関係だっけ、と一瞬考えてしまった。正解は祖父母の兄弟のこと。この関係の人と会うことってなかなかないよなぁ。冠婚葬祭でしか会わない人がほとんどじゃなかろうか。

人公の語り手は、大叔父を老人ホームに送り届けるという任務を任された。列車の中で出会った関西弁を喋る不思議な男性とのやり取りの中から、大叔父の過去の秘密が明らかになっていく、そんなような話。

説の形をとっているが、乗代さんの文学観を語っているような作品だった。思えば、彼の小説には必ず文学のくだりがある。実際の小説もたくさん出てきた。読んでみたいと思ったのは、この作品で肝となっているシャーウッド・アンダーソン著『黒い笑い』だが、そもそも絶版で中古でも出回っていないそうだ。ナボコフ著『ロリータ』もそろそろ再読したい。

う一作、中編として『未熟な同感者』が収められている。こちらも文学に関する考察が多く小説の引用も多い。フローベールサリンジャーナボコフカフカなど。引用だけ字体を変えて太字になっているが、ストーリーが少しわかりにくかった。まぁ、文学蘊蓄が好きな人にとってはこの上なく楽しいだろう。

代さんの最近の作品は、文体だけでなくテーマ自体も多くの人に読みやすくなっているように思う。もちろんそれは良いことなのだけど、私としてはあくが強い初期の作品のほうが好みではあるなぁ。

ほど乗代さんが知られていなかった頃の作品だから、3年経っても文庫化されず、仕方なく1年ほど前にこの単行本を買ってしばらく温めていたのだが、なんと2か月ほど前に文庫本になっていた。単行本を買ったのに読む前に文庫が刊行されるという、ガッカリ感…、半端ない。

honzaru.hatenablog.com

honzaru.hatenablog.com

honzaru.hatenablog.com