書に耽る猿たち

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『コンジュジ』木崎みつ子|丁寧に育て紡がれた文章

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『コンジュジ』木崎みつ子

集英社 2021.2.1読了

 

44回すばる文学賞受賞作で、先日発表された芥川賞の候補作にも選ばれた本作品。候補になっている時から、私は受賞作『推し、燃ゆ』よりもこの『コンジュジ』のほうが気になっていた。

親が家を出て、父親も自殺未遂を2回し、複雑な家庭環境で育ったせれなは、あるときテレビでリアンという外国人歌手を知り彼の虜になる。しかしリアンは既に故人である。誰かのファンになる心理やその世界、『推し〜』の話と似ているのかな?と感じた。それでも読み進めていくと、趣きはだいぶ違った。

ンジュジとは「助け合って生きていく人」のことらしい。誰と誰のことだろう?と考えながら読む。リアルな世界をうまく生きられないせれなは、リアンとの妄想の世界にも生きる。その境界線の曖昧さが見事だ。この小説の中ではおよそ20年くらいの時が経っていて、気付くとせれなも大人になり過去のトラウマに決着をつける。

未映子さんも「ラストの美しさ」を挙げているように、確かに圧巻である。ラスト数頁を3回くらい読み直してしまった。ここに向けて物語がひとつにまとまっていったんだなと思うと、それまで自分なりに少しずつ耐えたせれなが愛しく思えてくる。

崎さんは文章をとても丁寧に紡いでいる印象を受ける。大事に大事にゆっくりと育てているかのよう。どうやら木崎さんは校正の仕事をされているようで、なるほどと思った。私は受賞作よりもこの『コンジュジ』のほうが好きだけれど、もしかしたら読む人を選ぶかもしれない。好むのは圧倒的に女性が多いだろう。

んでだろうと考えたら、木崎さんは女性らしい女性をとことん書ききる方で、宇佐見さんは男性らしい女性を書く人なのだ。だからだろうか、一見似たような世界を描いていても受ける印象がだいぶ違うのは。ともあれ、木崎さんの次の作品が待ち遠しくなる。

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