書に耽る猿たち

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『パワー』ナオミ・オルダーマン|自分が強者になると、傲慢になり優位に立つようになる

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『パワー』ナオミ・オルダーマン 安原和見/訳

河出書房新社河出文庫] 2023.6.12読了

 

性の身体に突然変化が生まれる。スケインと呼ばれる器官が突然生じて、指先から電流が流れるようになる。その電流を自由に操れるパワーが宿った女性たちが、男性よりも優位に立ち彼らを圧倒する。そんな世界を描いたディストピア小説である。

 

な登場人物は4人。暴力を受けて育ち目の前で母親を殺されたロクシー、不幸な幼少期に産まれてのちに教祖になるアリー、政治家のマーゴット、そして唯一の男性がジャーナリストのトゥンデだ。それぞれの視点で短めの章が入り乱れた群像劇になっている。

 

は女性だが、一番共感に近い気持ちを抱けたのは、何故かトゥンデである。自身が今までに男性から痛めつけられたり男女の不平等をさほど感じたことがないからなのか。それとも、彼に同情を覚えたのか。

 

のようなパワーを手にした女性たちは、差別をする側に立ちたい、優位に立ちたいと思い、そこが恐ろしいところだと思った。弱い時には強者に対して恐れ慄くのに、一転してしまうと弱かった時の気持ちを忘れてしまうという人間の怖さ。相手がどんな気持ちになるかを知っているはずなのに。たぶん、富や名声を手に入れた人間が驕り高ぶる気持ちになるのとおんなじなんだろう。

 

バマ元大統領が2017年の推薦図書に入れていた本だから、前から気になっていたこの作品。『侍女の物語』を描いたマーガレット・アトウッドの師事の元でこの小説を書き上げたというけれど、それが宣伝文句になっているのがちょっとなんとも言えないところ。読みやすいのはこの『パワー』ではあるが、個人的には『侍女の物語』のほうが文学的な意味では分配が上がるかな。

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