書に耽る猿たち

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『侍女の物語』マーガレット・アトウッド|女性が監視させられるサスペンスフルな世界

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侍女の物語マーガレット・アトウッド 斎藤英治/訳

ハヤカワepi文庫 2021.11.22読了

 

ブフレットという女性の目を通して「侍女」として生き抜く様を描いたディストピア小説で、アトウッドさんの代表作のひとつである。この作品でいう「侍女」は、子供を産むためだけの道具として扱われている。全ての女性が仕事と財産を取り上げられ、妊娠可能な女性はエリート男性の元に派遣される。

中に出てくる「司令官」「保護者 」「 代用紙幣」「救済の儀」など聞き慣れないワードが不穏な空気をもたらす。よく比較されている通り、ジョージ・オーウェル著『一九八四年』を彷彿とさせる。健康な身体を持つ女性が監視された社会。そら恐ろしい世界で内容もとても衝撃的なのだが、小説としてはサスペンスフルで、とてもおもしろく引き込まれた。

式がこのように行われるとは、この場面は衝撃的だった。足を開いている侍女と、侍女の頭をお腹に乗せて支える本当の妻、一体どちらが辛いのだろうかをオブフレットは考える。いや、司令官すら快楽はないであろう。3人揃って感情を抑制された機械のようだと思った。

中に何度か「サンドレス」と訳されたものが出てくる。あまり聞き慣れない単語だけれど、サンダルと対になって出てきたので、夏用のドレス、夏用の服だとわかる。サンダルの「サン」も「太陽」なのだと今更ながら気付く。元々英語だったものがそのまま定着している言葉は、もうそのまま日本語であって、意味すら考えなくなっている。

んな世界はないだろうと思いながらも、このギレアデ共和国の規律の中にはまっとうな部分もあり、ある意味ではどこかであり得そうな世界なのだ。友達であるモイラが脱出したように、オブフレットもここから逃げ出したい。そう強く願いながらも、この世界の掟を受け入れ、自分なりの快楽や安寧を見出そうとするところが人間らしくもある。

ブフレットの語りの中に登場する、侍女らを統括しているリディア小母とはどんな人なんだろう。彼女が1番恐ろしく感じる。女性が軽んじられている世界なのに、女性が全てを管理している矛盾と密やかな本質が混在するこの世界。続編にあたる『誓願』では、リディア小母の立場からも物語が語られるようで続きが気になる。

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