書に耽る猿たち

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『物語 ウクライナの歴史』黒川祐次|ヨーロッパの中心にあるウクライナ

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『物語 ウクライナの歴史』黒川祐次

中央公論新社中公新書] 2022.4.4読了

 

シアがウクライナ侵攻を始めてからもうすぐ1か月になる。日本からは遠い地の出来事で、できることは何もないかもしれないが、何が起きているかを知ることは出来る。私たちは目を背けずに、今起きている現実を見届けなくてはならないのだと思う。ウクライナの歴史を知ることもそのひとつのきっかけである。

パラリンピックでのウクライナの応援や、紛争が始まって間もない頃、渋谷でウクライナ人が抗議デモをしているニュースを見たのが印象に残っている。日本人が話す、棒読みでどちらかというと「ラ」を強調する「ウクライナ」の読み方ではなく、「ウ、ク、ラ、イーナ」と「イ」にアクセントを置き少し長めに伸ばすのを聞き、その叫びが頭から離れなくなった。

者の黒川祐次さんは外務省に勤務していた頃、駐ウクライナ大使を務めた方である。もっと日本人にウクライナのことを知ってもらおうと2002年にこの本を上梓した。20年ほど前に出版されたので今起きている戦争に直接結びつく内容は書かれてはいないが、ウクライナという国の歴史を学ぶという意味ではとても勉強になった。タイトルに物語とあるが、小説ではない。中公新書の歴史シリーズの冠としてついている。

エフ・ルーシ公国は3人の兄弟と1人の妹が町を作ったことから始まったと『原初年代記』には記されているらしい。現在キエフ市内の公園には、三兄弟と妹の群像が立ち写真も載せられていたが、とても精密で素晴らしい。この像は今無事なのだろうか。

ンゴルの征服によりキエフ・ルーシ公国は衰退し長い統治の時代に入る。ウクライナという国は位置的にもヨーロッパの中心にあるため色々な国に帰属し支配下に置かれる。国という体が曖昧だからか独自の文化や歴史が目立たないように見えるが、実際には独特の文化があり多くの著名人をも輩出している。

治的な武装集団コサックの結婚式には驚く。村中の人々が新婦の処女性と新郎の男性能力の証人となるのだ。また、フランスの文豪オノレ・ド・バルザックキエフ近くの村に住むある伯爵夫人と懇意にしていたというエピソードも初めて知った。

二次世界大戦でウクライナは多くの被害を受けたことに心が痛む。ポーランドとの関係も良好ではなかったのに、現在ウクライナ難民を一番受け入れているのはポーランドだ。だから、ロシアとウクライナもいつかきっと良い関係になるはず。

近の私は、平野啓一郎さん言うところの「小説バカ」になっていたので、小説以外を読もうと書店をうろうろしていたら、この新書が目に付いた。どうやらネットでもこの本は売上1位のようだ。日本人にとっても今の世界情勢に対する意識は高い。ゼレンスキー大統領とプーチン大統領のことをもっと知りたいので、より近代に近いものを読みたいと思った。