書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『統合失調症の一族 遺伝か、環境か』ロバート・コルカー|家族とは何か

f:id:honzaru:20221125002705j:image

統合失調症の一族 遺伝か、環境か』ロバート・コルカー 柴田裕之/訳 ★★

早川書房 2022.11.27読了

 

んな家族が実在したなんて信じられない。統合失調症以前に、今どき12人も子供を産む夫婦がいることにまず驚く。その子供のうち半数が統合失調症になってしまったある家族についての衝撃のノンフィクションである。

のひときわ目を惹くジャケット(何かとてつもない怖さを感じる)に吸い寄せられるように、数日間この本の世界に没頭した。これが現実にあったことだと思うと、おもしろいという表現は少し違うけれど、読み物としてこんなにも夢中になり心を揺さぶられた作品は久しぶりである。

分の家なのに、兄たちを恐れて両親の寝室で内側から鍵をかけて両親の帰りを待つという生活はどんなだろう。それなのに、自ら警察を呼び連行された兄に対して、一番末っ子のメアリーは罪悪感を持つのだ。次々と病んでいく兄弟を目にし、彼らに怯えるだけでなく自分もこうなるのではないかという恐怖。そんな子供たちと暮らす父母の様々な葛藤。あぁ、彼らは一体どうなってしまうのだろう。

ャルヴィン一家が辿った経緯が克明に記される傍ら、統合失調症における科学的研究の経緯が挿入されていてとても興味深い。のちに統合失調症と改名される疾患について最初に主要な作品となった『ある精神病者の回想録』が気になる。弁護士・裁判官だったダニエル・パウル・シュレーパーは、51歳の時に発症し自ら回想録を記した。また、『ジェネイン四つ子姉妹』という家族性統合失調症の研究書も気になった。今回読んだ本では、統合失調症の原因究明や予防の発見を目指すリン・デリシとロバート・フリードマンの功績が非常に大きい。

の本の問いかけである【統合失調症は「遺伝」なのか「環境」によるものか】については、長く論争が繰り広げられてきたが、未だに結論は出ていない。一つの原因というわけではなく総合的なものなのだろう。長年の研究で変化があったのは「統合失調症という診断の本質の捉えにくさを認め、すべてに当てはまるような定義などないという認識に至ったこと(452頁)」だという。

分たちの家族を世間に知ってもらうために全てを明かしたリンジーの勇気は賞賛に値する。しかし誰よりも強く人間としての存在感を放つのは母親ミミであることは疑いようがない。12人の子供を産み、育て上げ、夫の介護もし、誰1人として見放さずに家族でいたのだ。これは「家族とは何なのか」を説いた作品でもある。ギャルヴィン家で起きたことは決して他人事ではないと思う。程度の差があるだけで、誰しもが統合失調症の片鱗を持っているのではないか。

バマ元大統領が選ぶ年間ベストブックに名を連ねる本は、私にとってすごく気にいるかあまり合わないかの両極端なのだけれど、この本は素晴らしかった。素晴らしいというか凄まじい。人間は、死や生、精神、狂気に対してどうしてこんなにも惹きつけられるのだろう。ノンフィクションでは『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』以来のめり込んだ本だ。

honzaru.hatenablog.com