『終りなき夜に生れつく』アガサ・クリスティー 矢沢聖子/訳
ハヤカワ文庫 2021.2.13読了
クリスティー作品のなかでポワロもミス・マープルも出てこないノン・シリーズだ。一番有名なのは『そして誰もいなくなった』だろう。この『終りなき夜に生れつく』は、「ジプシーが丘」という地に建つ館をめぐる、少しオカルトめいた幻想的なストーリーになっている。
ジプシーとは、日本ではあまり聞き慣れないが、ヨーロッパの放浪民族と言われている。独特の格好をした神秘的な流浪人で、盗みを働くなどあまり良い印象はない。私の中では、髪をなびかせて駆け巡る女性のイメージである。
主人公はマイケル・ロジャーズという若者。表紙のデザインから女性が主人公かと思ったが、男性の語りで回想される。クリスティーさんの作品にしては、人の心理や感情がかなり細かく描かれている印象を受ける。そうか、これはフーダニットの探偵ものではなくて、ミステリー、それもホラー要素がある作品だ。
最初から最後まで不吉で歪な空気が漂う。「ジプシーが丘」という土地の名前もそうだが、奇妙な噂もあり、恐怖が忍び寄る。それでもマイケルの語り口に、先が気になってのめり込んでしまう。クリスティーさんの筆致にまたもや脱帽する。
ミステリーでありながらも恋愛物でもあり、いつものクリスティー作品とは一風異なるが、これもまた印象に残る作品である。登場人物がいつもより少ないため混乱しない。
人が本当に欲しているものは何なのだろうか?全て手に入れたらどうなるのか?そんなことを考えながら読んだけど、深夜に読むと先が気になり睡眠時間がなくなるので注意。