書に耽る猿たち

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『鏡は横にひび割れて』アガサ・クリスティー|マープルは安楽椅子探偵さながら

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『鏡は横にひび割れて』アガサ・クリスティー 橋本福夫/訳

ハヤカワ文庫 2021.11.26読了

 

リスティーさんの作品群のなかには、タイトルが斬新で目立つものが何冊かある。この作品もその一つだ。ミス・マープルシリーズの8作めである。

入はミス・マープルがその住み慣れた家、住み慣れた街(ロンドンからほど近い架空のセント・メアリ・ミード村)の記憶とともにもの想いにふける場面だ。クリスティーさんの作品は単にミステリ手法が長けているだけでなく、さりげない情景を奥深く表現し、人間の心理をうまく捉えている。それがミステリファンのみならず、世界中で多くの読者に愛されている所以だろう。

メリカの名女優とその夫がこの街に古くからある邸宅ゴシントン・ホールに引越してきた。引越し祝いのパーティーで起きた毒殺事件。一体誰が何のために。フーダニット(誰が)よりもホワイダニット(何故)に重点を置いた作品で、安定のクリスティーミステリを楽しめた。

女優のマリーナがある場面で「凍りついたような表情」をする。マープルの友達であるバントリー夫人がそれを見て、作品のタイトルである『鏡は横にひび割れて』を連想する。イギリスのアルフレッド・テニスンという方の詩の一部なのだ。もちろん実際に鏡が割れたりはしていない。

う結構お年を召しているマープルは、召使いに身体を気遣われたり嫌味を言われたりで、悶々とする。それでも根っからの穏やかで奔放な性格からか、気にせず事件解決に思いを巡らせる。まるで事件があるほうが生きがいになるかのように。実際に読んでいる私たちからすると、聞き込みをする探偵役はクラドック主任警部だ。マープルはといえば、まるで「安楽椅子探偵」さながら。それでも最後はめくるめく謎解きを披露する。

リスティーさんのシリーズものは、何から読んでもさほど困らずに一話で楽しめるのだけど、今回に限っては『書斎の死体』を先に読んでおけば良かったかなと思う。舞台となるゴシントン・ホールで死体が発見されたという事件が過去にもあったのだ。それにしても、こういった殺人に続けて見舞われる場所とは一体…。

ープル老嬢のチャーミングなのにカッコいい姿をみていると、やはり先日読んだ『木曜探偵クラブ』を思い出す。探偵にはある程度の人生経験を積んだ年配の方のほうが私は好きだ。さて、クリスティー作品、次は何を読もう。

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