書に耽る猿たち

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『春にして君を離れ』アガサ・クリスティー/女性の心の声

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『春にして君を離れ』アガサ・クリスティー 中村妙子/訳

ハヤカワ文庫 2020.12.1読了

 

ス・マープルシリーズを読もうとしていたのだけど、ノンシリーズのこの小説を待ちきれなかった。実はアガサさんの作品の中で、この『春にして君を離れ』が一番読みたかったのだ。多くの方がこの作品をおすすめしているから。でも、まずは王道を!と思いポアロ3作品を先に読んだ。もちろんどれも名作だった。 

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ずこのタイトルの邦訳『春にして君を離れ』が素敵すぎる。訳者がタイトルも含めて訳すと思うが、誰にOKをもらうんだろう?原作者であるわけないし、編集者かな。センスが良すぎる。『風と共に去りぬ』もタイトルだけで感動しちゃう。

ガサさんの作品にしては殺人も起きず、血も流れず、だから探偵も登場しない。推理は少しだけある。40代後半の主婦ジョーンは、バグダッドにいる娘のお見舞いを終えてイギリスへの帰路、同級生に再会する。ジョーンは勝ち組で、愛すべき夫や子供を持ち恵まれた人生を送っていると自信をもっていたが、疑問を持ち始めていく。

道の不具合から足止めを食ってしまい、そこで自分のこと、夫のこと、家族のことを考える時間ができる。この物語、ジョーンの独白というか心の中の声がほぼ全てと言っていい。疑問が疑問を呼び、いつしか狂い始めたのかと思うほど。信じていいのかわからなくなる、最後までつきまとう違和感。

女が100%分かり合えることなんてないと思う。夫婦、恋人に限らず、親子、家族、友達すべて。だって他人なんだから。そういう意味では実はどこにでもあるような話かもしれない。きっと、演技や嘘が飛び交っている。それを感じさせない技量もひとつの愛情表現なのかなと。

性の心の中をのぞいているようだ。ため息と女性ならではのねちねちとした言い回しのオンパレード。もしかしたら、男性は読み続けるのがおっくうになるんじゃないかなと思ってしまう。確かに、他の作品と比べて嫌な感覚が残る(ある意味忘れられない小説だから心には残る)けれど、期待していたほどではなかったというのが私の正直なところ。

っぱり書評はなるべく読まず(読むとしても簡単なあらすじだけ)、まっさらな状態で読むべきだ。と、わかってはいるのだけど…。