『そして誰もいなくなった』アガサ・クリスティー 青木久惠/訳
ハヤカワ文庫 2021.9.4読了
クリスティーさんの作品ではおそらく1番有名なのではないだろうか。例え読んだことがなくても、タイトルだけは知っているはずだ。各国で映画化ドラマ化され、オマージュ作品も数多い。タイトルだけでもオマージュされているイメージだ。
私ももちろん読んだことがある。小さい頃にクリスティーさんを知って一番最初に読んだのがたぶんこの作品だ。このストーリー展開自体にまんまとはまって夢中になったけれど、細かい描写や文体はゆっくりと味わうことは子供のときにはできない。再読してどう思うのかも楽しみだった。
兵隊島という島に招待された人たち。執事も含めた10人は、童謡になぞらえて次々に死んでいく。果たして何が起こっているのか、最後に残る人物が犯人なのか-。
結末がわかっていてもゾクゾクする展開で、切れ味鋭い文章が先へ先へと急かせるようだ。数十年経って読んでみて、今の私が欲する期待していた濃厚な文体はエピローグだけかな。ほとんどの人にとって読みやすく万人受けする作品になっている。
解説で赤川次郎さんが述べているように、無駄のない文章で適度な文量(一晩でちょうど読み切れる)、ストーリーに恋愛が全く絡んでないのにおもしろく読めるというのが、本当にその通りだと思う。
クリスティーさんのノンシリーズは2作読んだけれど、この『そして誰もいなくなった』は、“ザ・クリスティー”といえる作品。途中からポアロがひょっこりと登場しそうな雰囲気だ。ネットが張り巡らされれた現代ではありえない設定ではあるけれど、これを最初に考えたクリスティーさんには脱帽だし、『アクロイド殺し』とともに多くのパロディー・オマージュ作品があることは名作たる所以だろう。