書に耽る猿たち

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『フォックス家の殺人』エラリイ・クイーン|探偵エアリイ、12年前の真実を暴けるか?

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『フォックス家の殺人』エラリイ・クイーン 越前敏弥/訳

ハヤカワ文庫 2021.3.14読了

 

ォックス、つまりキツネである。目次に書かれた見出しを見ると、すべて「きつね」になっている。例えば「1 子ぎつねたち」「2 空飛ぶきつね」のように。この作品に登場する家族の姓がフォックスである。目次だけ見たら子供向けの絵本のようだが、れっきとした本格ミステリだ。

地中国から帰還したディヴィー・フォックスは激戦による心傷が癒えない。ある夜妻のリンダを殺そうとしてしまう。原因は戦争ではなく、過去に起きたディヴィーの父親の事件が絡んでいると思ったリンダは、エラリイに調査を依頼する。12年前に起きたフォックス家の殺人事件にエラリイが挑戦するストーリーである。

の「ライツヴィルシリーズ」は、ライツヴィルという人口1万人の小さな街を舞台にしたシリーズであり、作家であるエラリイ・クイーン(著者と同姓同名)が事件を解決していく。『フォックス家の殺人』は2作目であるから、1作目の『災厄の街』を読んでからのほうが良かったかもしれない。それでも、1話完結型なので充分楽しめる。

だ、探偵エアリイの特徴やら何やらがほとんど語られていない。さも読者は知っていて当然のようなスタンスなのだ。特定の熱狂的読者しかついていけないのではと思うほど。この作品だけ読んでもエアリイのキャラがあまり発揮されていないように感じた。(そういう意味ではクリスティーさんのポアロやマープルはどの小説から読んでも生き生きしている!)

盤からの展開には、さすがミステリの巨匠による作品なだけあって、手に汗握り先が気になって仕方がない。だんだん頁を捲るのが早くなるタイプ。エラリイの推理と巧みな謎解きに興奮し、フォックス家の人々の人間性に感情移入する。

も私は事件を解決していく過程よりもむしろ、第1章にあたる導入部分がとても好きだ。文学的な香りがするし、これからこの家で何が起こるんだろうと訳もわからずゾクゾクする不穏な感じがとても良い。探偵クイーンがわからない!など書いてしまったけれど、クイーン研究者なる方による解説を読むと、熱狂的ファンならではの楽しみ方がありそうである。

近クリスティーさんの作品ばかり読んでいたけれど、ミステリ黄金時代を築いた同時代のクイーンさん、クロフツさん、カーさんの作品も読もうと思い始めた。エラリイ・クイーンというペンネームの正体は、実は従兄弟同士のダネイとリーの2人である。そして、作中の探偵も同じくエラリイ・クイーンだ。国名シリーズにも登場する。「エラリー」という表記に馴染みがあるが、早川書房だけ「エラリイ」にしているようで、早川書房ならでわのこだわりっぷりがいい。

はクイーン作品は、はるか昔『Yの悲劇』と『Xの悲劇』しか読んでいない(しかもほとんど覚えていない)。ライツヴィルシリーズも今回初めてだが、有名な国名シリーズも一冊も読んでいない。まだまだ読みたいものがたくさんあるなぁ。