書に耽る猿たち

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『ガダラの豚』中島らも|超常現象てんこもり

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ガダラの豚』Ⅰ  Ⅱ  Ⅲ  中島らも

集英社文庫 2021.3.16読了

 

島らもさんといえば、アル中で躁鬱家、なかなかはっちゃけた人というイメージがある。小説家、エッセイスト、放送作家である彼は『今夜、すべてのバーで』で吉川英治文学新人賞を受賞した。私は過去にこれしらもさんの本を読んでいない。確か、らもさんが亡くなった時に読んだはずだ。

の小説の主人公、テレビで人気の民俗学教授大生部(おおうべ)は、まるでらもさんを彷彿とさせる。らもさんの小説は私小説に近いといわれているから、どの本を読んでもらもさん本人を思い浮かべてしまうのかもなぁ。信仰宗教、超能力や呪術などのオカルトめいたものがテーマだ。私は結構UFOなど神秘に満ちたものがわりあい好きなほうだけど、苦手な人は結構ついていくのが辛いかも。

語としては3章立てになっている。第1部は大生部の妻が新教宗教にはまっていく話。第2部は大生部家族とテレビ番組チームらがアフリカ・ケニアに行く話。ケニアのガイドさんが変な大阪弁を喋るもんだから、アフリカの話なのに違和感を覚えっぱなしだった。第3部はアフリカから日本に戻ってからの話、からのエピローグ。

酒を愛してやまない天才であり狂人であるとも言われていたらもさんは、どんな方だったのだろう?テレビ越しでしかわからないから本当の姿を知る由もないが、知る人は「弱くて純粋な人」と言う。今回らもさんをWikipediaで読んでみたら、破天荒な人生を歩んでいると改めて思った。

りたいことしかやらない、その精神を貫いたらもさん。大金持ちではない限りは普通そんな人は生きていけないし、そもそもお金を稼ぐことが難しい。それなのに、らもさんはやりたいように生きて人々を魅了した。やはり存在そのものに魅力があり才能もある方だったのだ。 

の『ガダラの豚』は有名な作品であるが、読む前は、もっとしっちゃかめっちゃかなんだろうなと予想していたのに、意外にも(失礼だが)ちゃんとした小説であった。いや、内容や登場人物の言葉違いなんかはらもさんらしい。文章自体が綺麗に思えたのだ。もしかするとららもさんの純粋な心が表れているのかもしれない。

でこそこういったストーリー展開はありそうだが、当時は斬新だったろうと思う。実は第1部が1番おもしろくて、だんだん尻すぼみというか若干飽き気味になってしまったのが正直なところ。たぶん、今と違って当時は「テレビ」が全盛期だったからかもしれない。この作品は「テレビ」があって成り立っている話なのである。まぁ、それでも極上のエンタメ作品には変わりはない。

の『ガダラの豚』は先日「柳美里選書」で選んでいただいた本である。文庫本で3冊あるが、あっという間に読める。そうそう「ガダラ」とは、はキリストが訪れた地域・地方の名前で、そこに豚の群れが出てくる1つのエピソード(マタイによる福音書第八章二十八~三十二)がこの小説のタイトルになっている。

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