書に耽る猿たち

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『木曜殺人クラブ』リチャード・オスマン|彩りに満ちた老探偵たちとともに

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『木曜殺人クラブ』リチャード・オスマン 羽田詩津子/訳 ★★

ハヤカワポケットミステリー 2021.9.27読了

 

の小説、刊行前から結構話題になっていたので、私も気になってついつい購入した。アガサ・クリスティー著『火曜殺人クラブ』はまだ未読だけれど、ミス・マープルものは2冊読んでいて、人生経験豊かな老婦人探偵の雰囲気はなんとなくわかる。

れが著者の小説デビュー作とは信じられないほど上手い。前評判がいいと、期待し過ぎてがっかりなんてこともよくあるのだけど、すこぶるおもしろかった!ミステリの謎解き自体よりも、私はこの構成や文学的センスにうっとりしたのだ。こういうの、読みたかったんだよなぁ。

福な人達が居住する「クーパーズ・チェイス」という高齢者施設がある。そこに「木曜殺人クラブ」という木曜の黄昏時に会合をする探偵クラブがある。メンバーは、クラブの中心人物エリザベス、元看護師ジョイス、元々労働運動家ロン、元精神科医イブラヒムの4人だ。

解決事件の推理をして楽しむ探偵気取りのお茶会をしていたら、現実に殺人事件が起こってしまう。これは私たちにうってつけじゃないか!と調査に乗り出す、というこんな話。

、あらすじのさわりだけ書くとどこにでもありそうなミステリなのだが、読めばこのおもしろさにどっぷり浸かれるはず。基本は三人称で語られるのに、ところどころでジョイスの日記が挿入されている。これがなんともチャーミングで微笑ましい。誰に向けて書いてるの?って思いながら、ユーモアたっぷりの語りに笑みをこぼし、彼女らの巧みな推理と行動を楽しく眺める。

齢者ばかりだから、みんなそれぞれの過去がある。大切な人との別れや、秘めたる想い、哀しみ、そして何より愛が溢れている。関わる人たちのエピソードの繋がり具合にはっとおののき、誰かを大事に思う気持ちがこんなに充足感をもたらすとは。なんだかミステリ小説の感想っぽくないけど。登場人物の1人、大好きなクリス警部には幸せになって欲しいと願う。

んな、きっと80歳前後のお婆ちゃんお爺ちゃんなのに、そうは思えないほどの陽気でパワーに満ち生き生きとした姿。歳をとってもこんな風に過ごせたら幸せだなぁと思う。

ケミスなのに珍しく表紙が付いており装幀もかわいい。ただ、いつものビニールカバーが付いていないのが残念。どうして…?ポケミスといえば、この長細くしっくりくる大きさ、黄色い紙、そしてビニールカバーの特別感があってわくわくするのに。でもまぁなんにせよ、ポケミスは持っているだけで気分は上々。

リスティー作品が好きな人はドンピシャだと思うし、また英国探偵ものに喉から手が出る人は楽しめるはず。クリスティー作品の翻訳も手掛けている羽田さんの訳もこなれている。そして、なんとすでに続編が決まっているようだ。邦訳は随分先になるだろうが、楽しみに待つことにしよう。エリザベスにはまだまだ謎がありそうで気になる。今回のストーリーと交差する場面もありそうで今からわくわくする。

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