書に耽る猿たち

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『文鳥・夢十夜』夏目漱石|古き良き日本語の読み仮名が良い

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文鳥夢十夜夏目漱石

新潮文庫 2021.7.22読了

 

しぶりに夏目漱石さんの作品を読んだ。長編は結構読んでいるのだけど、短編はもしかしたら初めてかもしれない。夏だから、ちょっとホラー要素かなということで以前から気になっていた『夢十夜』もようやく読了。

 

文鳥

小学生の時、自宅に小鳥を10羽以上飼っている友達がいた。当時は鳥の良さが全くわからなかったものだが、大人になってくると段々鳥類の美しさがわかるようになるものだ。動物園の鳥類のブースには大人の方が多い。

三重吉にすすめられて文鳥を飼うことになった「自分」は、鳥籠の中で生きる文鳥の姿に、生きることへの儚さと美しさを見出す。執筆しながら文鳥を気にかけつつも、最後は家人のせいにして死なせてしまう。なんて自分勝手な、と思いながら読んでいたが、これが人間というものの浅ましさなのかと感じた。短い作品であるが、漱石氏の筆致を存分に味わえる。

 

夢十夜

こんな夢を見た、で始まる10の夢物語が描かれた、漱石さんの短編としては非常に有名な作品だ。人は無意識に夢をみるが、実は深層心理であることも多く、目覚めた時にはハッとすることが私もある。それでも何故か夢は忘れてしまう。夢みたものを日記として残すのも自分の心理を発見するためには有効かもしれない。一読しただけでは意味不明な部分もあるからどなたかの解説を読んでみたいかも。

 

題作2作を含む7つの短編が収められている。さすがの文豪、どれもお手本のような文章であり、古めかしい言葉遣いと読み方(妻のことを「つま」ではなく「さい」と読んでいたり)が何とも良い。小説というよりも、日記や随筆のような趣である。突出しているのは最初に収録されている『文鳥』だ。

編集は1冊の中で1作品しか記憶に残らないことが多い。他はタイトルだけ見ても読んだことすらいつの間にか忘れてしまう。『文鳥』は絶対忘れないと断言できる。それと、ジャケットの安野光雅さんの装画はほっこりするし味わい深いなぁ。