書に耽る猿たち

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『いるいないみらい』窪美澄|いろいろな家族のかたち

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『いるいないみらい』窪美澄

KADOKAWA[角川文庫] 2022.6.19読了

 

イトルの「いる」「いない」とは、自分に子供が「いる」か「いない」かの未来のことである。つまり、赤ちゃんを産むか産まないか、産めるか産めないか、家族をつくるかつくらないか、そういった未来永劫に正解も不正解もなく、結論がわからないテーマに窪美澄さんが真っ向から挑んだ作品である。

のテーマにまつわる短編が5作収められている。1作めの『1DKとメロンパン』から、ちょっと涙が流れそうになる。今は子供が欲しくないと思う知佳に対して、夫の智宏の受け止め方が優しい。だけど、智宏のような旦那さんばかりとは限らないし、こんな風にうまくおさまる綺麗な夫婦だけではない。現実的にはそれぞれの夫婦ごとにいろんな事情がある。

のいない仲の良い夫婦2人の関係性を描いた作品、子供が大嫌いという独身女性、数ヶ月の我が子をかつて亡くした離婚歴がある中年男性など、視点を変えて家族の在り方を考える。これまで感じたことはなかったのに、山本文緒さんの作品の読後感に近かった。

れぞれの短編は独立している。しかし最初の『1DKとメロンパン』と最後の『金木犀のベランダ』には微かな繋がりがあり、それがほっと心をなごませてくれる。夫婦の在り方、家族の在り方は人それぞれで、誰にとっても正しい答えはないと思う。どんな形であっても、自分がなにを信念として生きていくかが大事だ。血縁関係にある人に相談できないことでも、他者から何らかのエネルギーをもらうことが多々ある。だから、自分も誰かのために助けとなるような言葉をかけてあげられることが大切だと思い知る。

167回芥川賞直木賞ノミネート作が先日発表され、窪美澄さんの『夜に星を放つ』が直木賞候補に選ばれた。これまで多くの作品を世に出してきた窪さんだが、まだこれらの賞を受賞していなかったんだよなぁ。短編集が直木賞を取ることはあまりないと思うのだけど、どうだろうか。

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