書に耽る猿たち

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『デッドライン』千葉雅也|本気にならず何かを結論づけることもなく

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『デッドライン』千葉雅也

新潮社[新潮文庫] 2022.11.21読了

 

葉雅也さんは立命館大学の教授をされており『現代思想入門』の著者で知られる哲学者である。哲学者が書いた小説、しかも芥川賞候補にもなっていたので、かねてから気になっていた作家である。

学一年の時『言語と論理』という履修科目があった。1年間の授業でテキストに使用している本のわずか30頁ほどしか使わず、ひたすらフーコーの思想を深く掘り下げて語っていた教授が懐かしい。学生たちに厳しく、半数以上の学生が単位を落としていた。私もそれに漏れず2年生で再履修することになってしまった。この小説を読んでフーコーやらドゥルーズがでてきたので、真っ先にその教授のことを思い出した。

 

学を専攻している大学院生の「僕」が主人公である。他の人にはちゃんと名前があるのに「僕」の名前は明かされていない。友達に呼ばれるときも「○○くん」と書かれている。これは読者自身を投影させるためなのか?

士課程のデッドライン(締め切り)に追われながらも、男色のひとときを楽しみ、友人の映画を一緒に撮り、若者の日々を謳歌する。しかし決して物事に本気になっていない。何かを結論づけるのではなく、たゆたうように生きる青春が飄々と描かれていた。

ランス哲学者の思想を学びながらも荘子の故事が出てくる。目まぐるしく移り変わる場面、突然語り手が変わる違和感、文章は決して難解なわけではないのに、観念的で読み解くのが難しい小説だった。町屋良平さんの解説を読むとなお一層ちんぷんかんぷんになる。解説なのに、難解さを増す解説なのが、、まぁ町屋さんっぽいけれど。