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『十七八より』乗代雄介|選考委員を唸らせるとはこのこと

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『十七八より』乗代雄介

講談社文庫 2022.1.25読了

 

代さんがそろそろ芥川賞を取るんじゃないかなぁと見守っていたけれど、『皆のあらばしり』は残念ながら受賞ならず。今回の芥川賞候補になった作品は1作も読んでないからなんとも言えないけれど。また折を見て、受賞作はもちろん気になる候補作は読んでみようと思う。

講談社主催の「群像文学新人賞」に結構な敬意を払い重きをおいている。他の賞に比べ、独特の文体と若さ溢れるエネルギーみたいなものが抜きん出ている気がするのだ。村上春樹さんもかつてこの賞を受賞されている。乗代さんは『十七八より』でデビューし、群像文学新人賞を受賞された。

み始めてすぐに、この文体はやばいなと思った。どうしたらこんな表現ができるのか、こんな比喩をどうやって思いつくのか、本の中で所狭しと並べられた言葉たちが混ざり合い、まるで花開くかのようだ。

イトルを読んだだけでは漢数字でわかりにくいが「17~18歳より」という年齢の意味である。「じゅうしちはち」と言う時はほぼ年齢を指す。これは17、8歳の女子高校生の話である。家族との団欒、体育教師や国語教師との意味深なやり取り、叔母との文学談義など、あらゆる場面がどんどん飛び火していき、まとまりがないようなあるような。そもそも、語り手が誰なのかも全く判別つかない。

代さんの書くものは、純文学マニアや文学オタクに極度に愛されることは言わずもがなである。まだ数冊しか読んでいないが、デビュー作である本作が一番難解に感じた。

説には群像文学新人賞選評が載せられている。高橋源一郎さんは「小説という試みは、ついに掴むことのできない秘密を追い求めることばの運動であることを、この作品は教えてくれる」と述べる。また、多和田葉子さんは「読んでいると時間が引き延ばされていくようで忍耐力が要求される」、辻原登さんにいたっては「この中身のない小説を受賞作として強く推したのは…」と、なんたる言いようか。でも、どんなに素晴らしい賛辞の声よりも最上の褒め言葉だと思う。

そして、辻原さんは最後にこのように締めている。

何を言っているのか分からないセンテンスやパラグラフから上がるきしり音の中に、ある種の捨ておけない才気が感じられたからである。

ぶかぶかの文体の可能性に賭けてみよう。

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