書に耽る猿たち

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『黒牢城』米澤穂信|大河ミステリー、ここにあり

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『黒牢城』米澤穂信

KADOKAWA 2022.4.25読了

 

166回直木賞受賞、他にも4大ミステリランキングを制覇した大作である。米澤穂信さんの作品は数冊読んだことがあるが、そもそも現代モノ専門の作家だと思っていたから、歴史モノを書いたということに驚いていた。最近大河作品から離れていたのでついていけるか心配だったけどなんなく読めた。

田信長、黒田官兵衛は知っている。もちろん明智光秀も。しかし荒木村重(あらきむらしげ)という人物のことは全く知らなかった。この小説は、村重率いる城「有岡城」を舞台にした歴史小説かつミステリ小説である。

重が信長に対し謀反を起こし有岡城に籠城した。官兵衛の主君も村重に応じようとしたので、村重の意思を翻そうと官兵衛は有岡城に乗り込んだが、殺されることも叶わず幽閉されてしまう。どうして村重は官兵衛を殺めずに牢屋に入れたのか。それは、官兵衛の智力のためだけなのか。

はこれ、4つの章にわかれていて各章ごとに謎解きミステリに仕上げられている。歴史上の人物が何人も出てくるが、私には誰が本物で誰が架空の人物かわからなかった。それでも日本史に疎い人でも充分に楽しめるストーリーに仕上がっている。まぁ、国を守るとは並大抵のことではないんだと痛感する。

兵衛は「牢の中でひと月考えれば、わからぬことも段々にわかって参りますぞ」と言う。なるほど、牢の中でなくとも、もしかしたら一ヶ月考え抜けば、何かが見えてくるのかもしれない。罪を犯した人が牢獄で1人考える時間、また仏門に入った人が静謐の中1人考える時間、世間の雑音から離れたそういう中にいると、人間には何か見えてくるものがあるのか。

中に、弓の名人那須与一(なすのよいち)の名前が出てきた。以前通っていた美容院の担当の方と小説の話をしていた時、那須与一を主人公にした作品をおもしろいと勧めてもらったのだが、タイトルや著者名が思い出せない(当時も聞いたことがなかった)。何だったのだろう、普段あまり小説を読まないと言っていた方が絶賛していたので、気になる。当時メモしておけばよかったと悔やまれる。

史小説の中にこのようにミステリを仕組むとは、米澤さんさすがと言うしかない。直木賞受賞作ということで物語性も豊かでぐいぐい読ませるが、それよりも上手いのだ。この手腕に唸らされた。何よりタイトルが秀逸でカッコいい。『黒牢城』なんて。見ただけで俄然おもしろそうでワクワクする。

根涼介さんもそうだが、現代小説家が歴史小説を書き始めそれがヒットすることは多々ある。何より難解さがほとんどなく読みやすい。普段歴史モノを読み慣れていない人でもとっつきやすいので多くの人に読まれるのも頷ける。