書に耽る猿たち

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『タール・ベイビー』トニ・モリスン|同じ人種でも価値観がこうも異なるとは

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『タール・ベイビー』トニ・モリスン 藤本和子/訳

早川書房[ハヤカワepi文庫] 2022.12.24読了

 

るで2章分くらいカットされたものを途中から読んでいるのかと思うほど、最初の方は誰と誰の会話なのか、何をしているのか、彼らの関係性はどうなってるのかがわかりにくかった。あぁ、トニ・モリスンさんの小説はそうだ、過去に『ソロモンの歌』を読んだ時にもこのような感覚になったのを思い出した。初めのうちは忍耐強く頁を進めるしかない。

船して島に泳ぎ着いたサンは、ある屋敷に潜り込み、食べ物を漁り数日間寝泊まりしていた。ここでサンはジャディーンと出逢う。ジャディーンは白人の元で育った黒人女性、サンは黒人の中でのびのびと育った黒人男性だ。お互いに惹かれ合う2人。特にジャディーンはサンの人間本来の美しさに気付く。ジャディーンの今までの暮らしは、まるで人間性を我慢し息を潜めて暮らしているかのよう。

じ黒人でありながらも、文化や価値観の違いがこんなにもあるとは。育った環境により大きく異なるのだと改めて感じ入った。私はこれは恋愛小説ではないように思う。息苦しさや苦しさが随所に感じられた。大人のためのビターな文学である。サンとジャディーンの関係だけでなく、周りの人々の繋がりもまた深い余韻を残す。

話だけで埋め尽くされた頁が何度かあるのは、原文通りなのだろうか。おしなべて言えるのは、モリスンさんの書くものはやはり難儀だということ。特に、地の文が前後の文章と繋がりがないように思うものが多い。私自身が読み解けるほどの力量がないのもあるが。

者の藤本和子さんは、著者本人と会うことをモットーにしており、本人から直接感じるオーラと雰囲気も作品に閉じ込めたいらしい。藤本さんが書いたエッセイを1冊手に入れているので、近いうちに読むつもりだ。