書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『私の家』青山七恵|自分にとっての家とは

f:id:honzaru:20230106083551j:image

『私の家』青山七恵

集英社集英社文庫] 2023.1.7読了

 

内のお葬式の場面から物語は始まる。普通の生活をしていると滅多に会わない間柄だとしても、こういった席では顔を合わせ意識をする。血の繋がりとは結構不思議なものだ。鏑木家の三代に渡る「家」にスポットを当てた物語である。物理的なひとつの建物というだけではなく、自分の拠り所となる家という意味も含まれる。

の作品に登場するどの家も、「玄関」が「沓脱ぎ」と表現されていて印象に残った。これだけで最新のマンションではなく古くからある日本の戸建家屋を想像する。

は幼い頃から転勤を繰り返していたし、大人になってからの一人暮らしでも現在の家族でも、住む家は何度か変わっている。現在進行形で住んでいる家が今の「私の家」である。自分が生まれ育った家が、何十年も、はては死ぬまで長く残っていることは稀であろう。田舎であれば珍しいわけでもないかもしれないが、もしそんな家があれば(そういう人がいれば)羨ましく思う。より家に対する愛着とそこにあるだけで安心する何かが確実にあるんだと思う。

人かの視点で繰り広げられる連作短編のような形になっている。家族であっても実は相手のことはわかっていないというか、結局全てをわかりようがないんだと感じた。それでもいいと思えるのが家族なんだろう。

章の終わり方がなんとなくすっきりせず、「あれ、こんな感じで終わっちゃうの?」という感覚になることが何度かあった。青山七恵さんの小説は『めぐり糸』しか読んだことがない。粘着質な語り口が女性の生き様に現れてなかなかおもしろかった。『めぐり糸』に比べると劣ってしまうが、なんの変哲もない日常を切り取る小説というのはなかなか難しいのだと改めて感じた。

と思ったのだが、こういう「家」をテーマにした年代記の物語って、女性作家が書くことが多いような気がする。角田光代著『ツリーハウス』、桜庭一樹著『赤朽葉家の伝説』、山崎豊子著『女系家族』などが思い浮かぶ。それだけ家庭における役割みたいなのが女性には根付いているからなのか。もちろん男性作家が書いた年代記も読んでいないだけで存在はするだろうから、今度意識して選んでみようかな。