書に耽る猿たち

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『忘却についての一般論』ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ|新鮮で楽しい、詩的で美しい

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『忘却についての一般論』ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ 木下眞穂/訳

白水社[エクス・リブリス] 2023.6.20読了

 

ンゴラという国があることは知っていたが、それが何処にあるかも、どんな国なのかも意識したことがなかった。アフリカ大陸の南西部に位置する共和制国家で、日本の面積の3倍以上の国土に対して国民は約3,080万人のみ。アンゴラ人が書いた本というのも初めてだったし、そもそもアンゴラポルトガル語公用語としているのも不思議だった。

 

者の木下さんによるあとがきを読むと、ポルトガル大航海時代にアフリカで発見した土地(アンゴラやモザンピークなど)を植民地化していた。世界恐慌のせいで国内の失業者が増え、ポルトガル政府はアンゴラなどのアフリカへの移住を推奨していたそうだ。だからポルトガル語なんだ。とにもかくにも、知らない国の知らない文化を小説を通して知ることは、新鮮で楽しい。そして、詩的で美しい作品だった。

 

ルトガルに生まれたルドは、結婚した姉夫婦が住むアンゴラの首都ルアンダで一緒に暮らすことになる。鬱々と過ごしていたが、ポルトガル独立戦争に巻き込まれて姉夫婦は行方不明となってしまう。ルドは、住居に壁を作り、犬とともに30年近くを引きこもって生きることになる。ルドの運命がこんなふうになるとは予想だにしない、互い稀なるストーリーテリングだった。

 

段急いで読んでいるつもりもないのに、あっという間に読み終えてしまった。確かに短めの章がたくさんあるし、詩や手紙だけの章も結構あるから、頁いっぱいに文字が埋め尽くされているわけではないけど、それでもまぁ知らぬうちにラストまで駆け抜ける。早く読み終えるのは単行本であれば特に勿体無いなと感じるが…。小説のタイトルがお堅い感じだから手強そうなのに、全くそんなことはなかった。

 

2ヶ月ほど前に、横浜・阪東橋にある書店「本屋象の旅」で翻訳者木下眞穂さんによるトークイベントがあった。折に触れて、木下さんの訳した小説やおすすめの本を読んでいる。数冊読んで、いまのところハズレがなく好みにピタリ。『同調者』は特に良かった。

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