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『ティファニーで朝食を』トルーマン・カポーティ|お洒落で都会的、ポップなアメリカ文学

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ティファニーで朝食をトルーマン・カポーティ 村上春樹/訳

新潮社[新潮文庫] 2023.7.23読了

 

ップで爽快感のあるアメリカ文学を読みたくなった。村上春樹さんが訳したものを欲していたという理由もある。新潮文庫の100冊とか、今回のようなプレミアムカバーに選ばれる本の常連の『ティファニーで朝食を』を読むのは2回目だ。やっぱり名作であることに疑いはない。

 

んな風変わりで西部劇的な出だしだったっけ?もう、とにかく良い。語り手の「僕」は、かつて同じアパートに住んでいたある人物が、アフリカでホリー・ゴライトリーに生き写しの彫像を見つけたという話をバーで聞く。ここから、かつてニューヨークに出てきたばかりの頃に住んでいた場所(つまりホリーとの)の想い出が語られる。この導入はとにかく上手い。

 

ダイアモンドが似合うのはきっちり年取った女の人だけなんだもの。たとえばマリア・ウスペンスカヤとかね。しわがよって、骨張って、白髪で……そういう人にこそダイアモンドは似合うのよ。だから年を取るのが愉しみ。(64頁)

リーがティファニーのことを語るこのセリフが好きだ。確かにこんな人が身につけると、ダイアモンドの輝きだけでなく、その人にも輝きが増す。それにしてもホリーのなんと魅力的なことだろう。あけっぴろげで奔放で自由で、強くしたたかな女性。こんな風になりたいとすべての女性が思うだろうし、「僕」のようにこんな恋をしたいと多くの男性が羨むだろう。ラストがまた冒頭のシーンに結びつく。とにかく、お洒落で都会的な、爽やかな余韻を残す小説だ。

 

リーを想像するとオードリー・ヘップバーンの姿しか思い浮かばない。それだけあの映画の影響力はとてつもない。訳者の村上春樹さんによると、著者カポーティは、ホリーをヘップバーンのようなタイプの女性としては設定していないという。だから映画の主演がヘップバーンになったと聞いて不快感を表したらしい。これはどんな作品にも言えるが、映画の印象で文学作品への想像力を狭めてしまう。

 

題作の他に3つの短編が収められている。特に『クリスマスの思い出』は、子供向けの絵本のような形でも出版されており、あたたかい気持ちになれる。今改めて読むと『花盛りの家』が結構良かった。

 

ポーティやフィッツジェラルド、オースターの作品をときおり読み返したくなるのは何故だろう。どっぷりとした深いイギリス文学やロシア文学(もちろんアメリカ文学でも)が好みなはずなのに、軽快なビートを刻むポップなアメリカ文学を欲するときは必ずあるのだ。

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