『それは誠』乗代雄介
文藝春秋 2023.7.22読了
私は関東地方に住んでいるので、中学生のときは京都、高校生の時は北海道が修学旅行先だった。札幌も楽しかったけど圧倒的に記憶に残っているのは中学生の時の京都旅行だ。今でも連絡を取り合う仲の良い友達と一緒だったこともあるし、旅行から帰ってからは「手作りのアルバムを作成する」という課題があったから、なおのこと印象に残っている。大人になってから自由に行ける旅行はもちろん楽しいが、子供の頃に行く旅は一大イベントだ。
この小説は、高校3年生の佐田誠が体験した東京への修学旅行についての物語。男女7人の班で、男の子4人だけで別行動をする冒険譚である。その別行動とは、誠の「おじさん」に会いに日野まで行くというものだった。
なんだか懐かしくなった。特に、修学旅行に行く前の、班の人たちとわいわい、やいのやいのやって自由時間の行動を決めるシーン。そして淡いかすかな恋心。いや、もう青春真っ盛りで、箸が落ちただけで笑えるとはまさにこの頃。なんてことはないのに、笑いの連鎖が生まれ、ゲラ子になる。この馬鹿馬鹿しさがまた若さならでは。
まだ読んでいなかったくせに、当然乗代雄介さんが芥川賞を受賞するんだろうと思っていた。芥川賞候補になるのは4作目だが、今回も受賞ならず。いつか取るだろうと思うし、芥川賞を受賞していなくても素晴らしい作家はたくさんいる。しかし自分が小説家だったら、、、、たぶん一番欲しい賞だろうなと思う。
でもこればっかりは、その時の候補作や選考委員との相性にもよるだろう。それに、私の中では乗代さんの最高傑作は今のところこの作品ではない。読んだ中では『犬馬と鎌ヶ谷大仏』と『生き方の問題』が好きかな。もちろん全てが好みなのには変わりがないけれど、日本中をアッといわせる小説はまだまだこれから書かれるだろう。