書に耽る猿たち

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『サンクチュアリ』ウィリアム・フォークナー|濃い霧の中を模索する、それを読み解く楽しさ

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サンクチュアリウィリアム・フォークナー 加島祥造/訳

新潮社[新潮文庫] 2023.2.15読了

 

コロナウイルスに感染してしまったとき、何故か無性に中上健次やフォークナーの小説が読みたくなった。身体も心も弱っていたから、粘つくような力強い物語を求めたのだろうか。

 

 

むのも凄惨な恐ろしい事件が描かれているのだけれど、フォークナーが確立したといわれる「意識の流れ」のせいか時系列があいまいで、確かに(多くの方が感じている通り)わかりづらく難解である。だからか、その凄惨さがストレートではなく後から押し寄せるようで、余計に不気味で陰鬱なのだ。

 

もが報われない系の作品なのか…。これがアメリカの闇であり、また人間の闇であろう。唯一、弁護士ホレス・ベンボウの善良さと、赤子への愛情深いルービーには気持ちが救われる。

 

の密度が濃く湿度が高いフォークナーの世界観に入るとどうにも抜け出せない。フォークナーは『八月の光』と『アブサロム!アブサロム!』の2作しか読んでいないが、そうそう、こんな読後感だった。濃い霧の中を分け入っていくようでもどかしいのに、なぜか病みつきになる。目次もなく、登場人物紹介もない。誰がいつどうして何を感じているのか、それを読み解くのもフォークナー作品の楽しみともいえるだろう。随所に挿入される風景描写には高い文学性を感じる。力強さの中に垣間見える繊細さにも胸を打たれる。

 

近読んだリチャード・ライト著『ネイティヴ・サン アメリカの息子』やナボコフ著『ロリータ』に系統は似ている。フォークナーはやはりアメリカ文学の巨匠の一人であること間違いない。ちなみに、この新潮文庫の『サンクチュアリ』を見ると、どうしてもパオロ・ジョルダーノ著『素数たちの孤独』が思い浮かぶ。内容は全然違うけど、これも傑作なので未読の方は是非。

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