書に耽る猿たち

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『木挽町のあだ討ち』永井紗耶子|完成された物語性

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木挽町のあだ討ち』永井紗耶子

新潮社 2023.7.31読了

 

のドン突きにあるもの。胸の奥深くの突き当たりにあって自分の意志じゃどうにもならないもの。これに反する気持ちを抱こうとしても、何かが喉に引っかかったような、もどかしい気持ちになりすっきりしない。だから、胸のドン突きにしっくりくる生業に辿り着きたいと、木戸芸者の一八(いっぱち)は思うのだった。

 

2年前に木挽町で起きたあだ討ち事件について、ある人物が聞き取りをし何人かの証言を取る。仇討ちの真意は何だったのか。大柄な博徒作兵衛は何故あのように決闘に敗れたのか。そして、作兵衛の首を取り、その後闇に姿を消した菊之助とは一体何者なのかー。

 

八が語る一章をまず読んでみて、物語を作るのが、文章を書くのが本当に上手いなぁ、としみじみ感心する。そして最終章まで読み、ますますその技量に感服した。全てがこのように繋がるのかという構成力の高さはもちろんのこと、ひとつの物語を読み終えたんだなぁという達成感と満足感が高い作品だ。

 

るほど、著者の永井さんは作家歴12〜3年ほどのベテランである。元々は新聞記者、その後フリーランスのライターとなり新聞や雑誌などで幅広く活躍されていたそう。つまり、根っからの文筆家なのだ。とっつき難い歴史小説なのに、全く苦痛もなくてむしろすらすらと読みやすかった。

 

討ちというのは武士にだけ認められた特権であったのか。「人殺しは元来罪である。されど、親兄弟を殺された恨みを晴らすことは、その心持ちも分かる故にお上も認めようという、武士のみに許された仕来りだ」(54頁)という。中世ヨーロッパで騎士同士が決闘をしたのもそれと同じだろうか。

 

理人情に溢れた武士や町民らの人間模様を見ているのがとてもおもしろい。あだ討ちの真意よりも、登場人物の日々の営みを読んでいるだけで、その人間くささに笑みが溢れる。

 

月発表された第169回直木賞受賞作である。今回は、同じく時代小説で垣根涼介さんの『極征夷大将軍』と同時に2作が受賞となった。垣根さんは歴史小説家となってから本領を発揮していたし、いつ取ってもおかしくないなと思っていた。

 

の『木挽町のあだ討ち』を先に読んだのは、まずは直木賞だけでなく山本周五郎賞も受賞された作品だ(山本周五郎賞谷崎潤一郎賞は私の中で結構感度が高い)ということ。そして、まだ読んだことのない作家さんだったことがある。最近は既に知った作家の本を読むことが多いので、新しい作家の作品を強引にでも積極的に読もうと思っている。