書に耽る猿たち

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『灯台』P・D・ジェイムズ|孤島のミステリー、ダルグリッシュのロマンスもあり

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灯台P・D・ジェイムズ 青木久惠/訳

早川書房ハヤカワ・ポケット・ミステリ] 2023.7.30読了

 

年に入って初めて、久しぶりのジェイムズ作品。この作品は、2005年に彼女がなんと85歳の時に刊行された小説だ。筆の衰えを全く感じさせない、濃密なミステリーで存分に満足できた。

 

ギリス・コーンウォール沖のカム島という架空の孤島が舞台である。ここには住人もわずか、招かれる人もVIPな限られた人たちだけ。周囲を海に囲まれたこの島である人物が不穏な死を遂げる。タイトルにもなっている灯台で何が起きたのか、誰がこの事件に関わってくるのかー。

 

ルグリッシュ警視や、相棒であるケイト・ミスキン警部、ベントン-スミス部長刑事の人物描写はもちろんのこと、カム島にいる人物一人一人の人生や性格などが詳細に描かれている。なんなら、殺人が起きる前段階の、島にいる人物らのエピソード紹介みたいなところを読んでいる時がいちばん幸せだったかもしれない。ずっとこれを読んでいたいのになと。いつも感じるのが、ミステリ作家という括りにするのがもったいないほどの文学性の高さ。

 

去に読んだ作品はダルグリッシュの人物像はヴェールに包まれていたが、シリーズ終盤だからか彼の心の内が明らかにされている。事件のさなかにいる時の食事について思いを馳せるシーンなんてとても良いではないか。今までにはなくロマンス的な場面もあるからか、ジェイムズ作品のなかでは読みやすさを感じた。

 

ルグリッシュ警視ものは14作品あり、ラストを飾るのは『秘密』で、この『灯台』はその一つ前である。順不同に読んではいるものの、ラストの作品は最後に読みたいなと思う(同じ理由でクリスティのポアロ、マープルシリーズの最終巻は最後に読むつもり)から、ひとまず他の作品かな。というか、ダルグリッシュものは今回のを含めてまだ3つしか読んでなかったことに驚きだ。1冊読んで2冊分の濃度がある感じ。

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