書に耽る猿たち

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『オルタネート』加藤シゲアキ|繋がること、その手段

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『オルタネート』加藤シゲアキ

新潮社 2021.5.24読了

 

校生限定のマッチングアプリ「オルタネート」を題材にした小説である。いま世の中にあるマッチングアプリは結婚を前提としたものが多い。マッチングアプリ自体は数年前から流行っていて、私の知り合いには実際に結婚した人もいる。

の小説の中では、高校生が恋人をつくるため、または自分と同じ興味を持つ相手を探したり、さらには連絡を取るための手段としての意味合いとなっている。Facebookの高校生限定バージョンのようなものだろうか。

まり期待していなかったこともあってか、なかなか楽しく読めた。調理部の部長の蓉(いるる)、音楽好きでドラムを奏でる尚志、オルタネートを信奉する凪津(なづ)の3人を中心とした青春群像劇である。若くみずみずしい感情が溢れている。学生の頃、青春時代を少し思い出すような。アプリがこの作品の主役だからもっとAI任せでシステマチックなのかと思ったら、大切なのはやっぱり人との繋がりだとわかって安心した。

(いるる)という、最初は男なのか女なのか区別が出来ず、しかもキラキラネームっぽい名前が出てきて多少面くらったが、読み終わるころには素敵な名前に思えてくる。作中には同性愛カップルも普通に存在するし、時代を象徴しているかのようなジェンダーレスな空気感。

う少し登場人物の背景を詳しく書いてほしい、悪者も登場して欲しい、なんて注文はあるのだが、そう思うのは私が中年の世代で今までに結構多くの本を読んでいるからだろうか。若い学生さんなら間違いなく面白いと感じるだろうし、ただジャニーズファンというだけでも本を手に取るきっかけになるなら喜ばしいことだ。

直、この本が直木賞候補になった時に、単行本の段階で読むつもりは毛頭なかった。ジャニーズだし話題性のためにノミネートされたのかなぁと。それでも読もうと思ったのは吉川英治文学新人賞受賞のニュースを見てからだ。私は同賞がわりあい好みに合うので読んでみるかと。イラストの女の子とアプリのマークのような刻印があるジャケットにもなんだか惹かれた。

ャニーズのアイドルという超多忙な中での二足の草鞋はそれだけでも単純に尊敬するし、加藤さんが小説を本当に好きだからこそ出来るのだと思う。本当は執筆を専業にしたいんじゃないかな?でも作家は何歳になっても出来るけど、アイドルはそうはいかないか。そして、加藤シゲアキさんに注目がいきがちだが、新人賞ではない吉川英治文学賞は、村山由佳さんの『風よあらしよ』、これはよりおすすめ。

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