書に耽る猿たち

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『新古事記』村田喜代子|戦争が行われていると同時に平和な場所もある

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『新古事記村田喜代子

講談社 2023.8.20読了

 

うして『新古事記』なんだろう。『古事記』と関係があるのかしら。書店で気になり何気なく頁をパラパラすると、太平洋戦争の頃の話らしい。『古事記』とどう関わっているのか。最近『古事記転生』なる本がベストセラーになっているし、ちょっと気になるから読んでみるか。

 

系三世のアデラは、付き合っているベンジャミンから遠い土地に行くことになったと告げられる。アデラもその地に一緒に行くことになるが、ベンジャミンら科学者たちの仕事は秘密裏で、親に住所すら告げられない。

 

ーシャお祖母さん(アデラの祖母)の日記に、日本の文字はおもしろいと書かれている。象形文字のように漢字が作られたのは知ってはいたが、改めて見ると確かに興味深い。人間が歩いているように見える「人」もそうだし、人が両手に火を持っているように見える「火」、人間に服従するように点がついたような「犬」という文字。人間には火が必要で、その次に犬が必要だった。狩猟民族の起源を辿るようだ。

 

さかとは思っていたが、ベンジャミンたちがつくっていたのは、原子爆弾だった…。本の紹介を読むと記載されているのでネタバレではないつもり、悪しからず。しかし、アデラたちは何も知らずに平穏な暮らしをしていたわけだし、ベンジャミンも科学に一途で人にも優しい。それに、原爆投下するためのものとは知らず、もちろん望んでもいない。

 

『はだしのゲン』を読むと、ゲンやお父さんは、アメリカが、ルーズヴェルトが悪いと一方的に罵っていた。確かにアメリカの決定ではあるのだけれど、アメリカ人であれ誰であれ、人間一人一人の行動はいっしょくたにまとめていいわけはない。平和を破壊する兵器を作った人——、これだけ聞くとどんな悪鬼なのだろうと思ってしまうが、ベンジャミンたちの家族愛、動物愛を読んでいるととてもそんな風に思えない。

 

者の村田喜代子さんは、原爆開発に携わった科学者の妻の手記『ロスアラモスからヒロシマへ』(時事通信社)に影響を受けてこの小説を書いたという。核開発や戦争を考えるとっかかりにするには読みやすい作品だと思った。村田さんは驚くことにおん年78歳になる。かわいいおばあちゃんが書いているような、ゆったりほんわかした筆致である。だからなおさら、戦争ドラマに感じないのだ。戦争が行われている場所がある一方で、世界には、平和につましく暮らしている人がたくさんいる。今だってそう。ひとつの側から見るのではなく、多角的な視野で物事を見て考えることが大事なのだと改めて思った。

 

イトルの古事記に「新」がついているのは、これからの世界は、神々が創造するのではなく、人々が創造していくのだという意味だった。いや、よく見たら、帯に書いてあるじゃん…。

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