書に耽る猿たち

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『百年の子』古内一絵|小学館の矜持

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『百年の子』古内一絵

小学館 2023.9.25読了

 

の本の出版元である小学館を舞台にした100年に渡る大河小説である。書き下ろし作品だしなんとなく小学館なんだろうなという予想はしていが、猫型ロボットに触れられている箇所で「あぁ、やっぱり小学館だ!」となる。しかしドラさんというよりも、この作品は『小学一年生』などの学年誌を扱う編集部が舞台だ。そういえば確かに学年別になってるそんな雑誌あったよな~と思い出した。紙の本や雑誌やらは減る一方、どうやら小学校一年生の雑誌だけは今も残っているらしい。

 

日花(あすか)は若い女性をターゲットにしたファッション誌「ブリリアント」の編集部にいたが、「学年誌創刊百周年企画」のチームに抜擢された。抜擢といえば聞こえは良いが、誰もやりたがらないような部署に飛ばされた感が否めないと感じる明日花は、当初嫌々取り組んでいた。しかし、同期入社のひたむきな姿勢に感化されたり、ひょんなことから昔の名簿に祖母の名前を発見したことで心を入れ替えていく。

 

和の時代から昭和初期に舞台は移り変わる。祖母のスエは、当時絶大な人気を誇っていた林芙美子(作中では林有美子)の作品が大好きだった。私の家に『放浪記』の文庫本が結構前から積んであって「そろそろ読むように」と背中を押された気分だ。編集者の卵だった彬は、手塚治虫(作中では戸塚治虫)を担当することで鍛えられる。今でこそ世界に誇れる日本の漫画。多くの偉大な漫画家は小学館と深い関係があったのだ。

 

説は「本」をテーマにしたものが多い。そもそも作者は文芸が好きだから文芸畑が舞台となる作品が多いわけだが、この作品では、雑誌を、とりわけ児童向けの雑誌を取り上げているということで、知らない世界を発見でき興味深く読めた。子どもの頃にどのようなものを読んだのか、何を考えたのかはとても重要なことだと改めて思い知る。 

 

学館は文学作品に強いイメージはなく、私自身、小学館の単行本や文庫本を手にする回数はそんなに多くない。小学館で思い浮かぶのは雑誌、辞書、図鑑、漫画(特にドラえもんなど藤子不二雄作品)だ。子ども向けというか成長過程の人間に人生を指南するようなものが多い気がする。私は年に3〜4回神保町を訪れるが、今度小学館本社ビルをじっくり見て、この出版社の歴史に、そして矜持に思いを馳せようと思う。

 

紙を見た時、まるで小川洋子さんの作品かと思った。同じようなジャケットの小説が確かあったはずだ。もしかしたら同じ装丁者、デザインさんかな?古内一絵さんという作家の本を読むのは初めてだったのだが、書店ではよく目にしているマラン・マカランシリーズの作者だったんだ。

 

の本、Amazonの本レビュー数は10件程度なのに、Audible版のレビュー数が桁違いで250件ほど。小説の楽しみ方も変わってきているんだなとつくづく思う。小説を誰かの語りによって聞くということは、作品の良し悪しだけでなく読む人によっても印象は大きく変わるはずだ。この作品は石田ゆり子さんが語り手を務めている。