書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『琥珀の夏』辻村深月|大人の理想と子どもの期待

f:id:honzaru:20230922071021j:image

琥珀の夏』辻村深月

文藝春秋[文春文庫] 2023.9.24読了

 

どもの頃は自分の周りだけが世界の全てだ。小学生のほとんどは、家族と学校だけでそれ以外の世界は知らない。その小さな世界で自分がどう思われているか、一人ぼっちになったら、嫌われたら、親から愛を感じなかったら。そんな不安を誰しもが抱える。しかもその想いをうまく言葉に出来ないから誰かに伝えることもできない。そんな痛いほどの気持ちを辻村さんは繊細かつ深く書く。彼女は私とほぼ同世代なのに、どうしてこんなにも子どもの頃の気持ちがわかるんだろう。   

 

己啓発セミナー、はてはカルト宗教団体のような〈ミライの学校〉という学び舎で起きた子どもたちの成長と友情の物語である。ミライの学校の敷地跡から白骨遺体が見たかったというニュースを目にした弁護士の法子は、かつて友達だったミカちゃんの遺体なのではないかと心が乱れる。忘れかけていたあの頃の記憶ー。

 

ども時代のノリコやミカのパートの平易な文章に途中までは物足りなさを感じていたが、事件が明るみに出て不穏な空気が沸々とするにつれ、ストーリーに引き込まれていく。

 

ルト的集団は世間的にみるとどうしても印象が良くないが、そこにいる人たちにとっては希望と救いがある。良い面が確かに存在する。好き嫌いが表裏一体なのと同じように、一つの団体やグループの良し悪しは紙一重だと思う。ただ、自分の信念を曲げずに何を大切にするかの軸をしっかり持っていなくては、ぶれて流されてしまう。

 

間の尊厳を脅かすこと、これだけはやってはいけないという境界さえ抑えていれば、子どもはのびのび育つのが一番だと思う。大人の理想は必ずしも子どもの理想や期待と一致しない。どうして大人になると子どもの気持ちを忘れてしまい、利益や地位を優先させてしまうのだろう。

 

行本刊行時から気になっていたが、もう文庫になったなんて早い。実はいまだに本屋大賞受賞作『かがみの弧城』を読んでおらず、完全に辻村ワールドから遅れを取ってしまっている。思うに、辻村さんの本はジャケットが若者受けするイラストで、女子中高生をいちばんのターゲットにしているのだろうけど、私には個人的に合わない(冷汗)。だからこうも手に取るのが遅くなってしまう。それでも、辻村さんの物語る能力、読ませる力は際立っていると改めて感じた。やはり追っていかないといけないな。

honzaru.hatenablog.com