書に耽る猿たち

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『夢みる宝石』シオドア・スタージョン|切なく儚い幻想的な世界

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『夢みる宝石』シオドア・スタージョン 川野太郎/訳

筑摩書房ちくま文庫] 2023.11.25読了

 

の作品はスタージョンの最初の長編小説で1950年に刊行された。もともと早川書房から邦訳されていたが、この度新訳としてちくま文庫から刊行されたものである。スタージョンの作品は過去に河出文庫から出ている『輝く断片』を読んだことがあるのに、ほとんど覚えていない。もしかしたら途中で断念してしまったのか。

 

待を受けていた孤児のホーティーが家を飛び出し、新たに出逢った人たちとの交流を通して成長していく物語である。超常現象的な要素もある。SF作家として知られているスタージョンだが、この小説はファンタジー作品という印象が強かった。

 

しいハバナや、美しいジーナ。今まで他の人から感じたことのない優しさと安らぎを感じたホーティは、彼らと一緒にいたいと思うが、彼らが所属するカーニバル団の怪しい雰囲気が気になる。「ここにいて大丈夫かな」という疑惑を抱えながらも、なんとなく居心地が良かったり、自分にかまってくれる人がいるからそこにいるという経験は、誰にでもあるだろう。

 

年が主人公ではあるが、友達になった小人は本当は子供ではなかったり、敵となる人喰いの視点では論理的、科学的に語られているので、大人のためのファンタジーといえるだろう。作中で突然12年の時が経ち、ホーティーが別の人物であるかのように変貌したことに驚いた。突拍子もない展開ではあるが、どこか切なく儚げで、何よりも美しい世界がここにはあった。スタージョンの世界観は淡く幻想的でダークだ。