『誘拐の日』チョン・ヘヨン 米津篤八/訳
ハーパーコリンズ・ジャパン[ハーパーBOOKS] 2023.12.30読了
韓国俳優のイ・ソンギュンさんが亡くなったというニュースを見て驚いた。どうやら自殺だったようだ。韓流にそんなに詳しくはないけれど、『パラサイト 半地下の家族』を観ていたから、あのお金持ちでイケメンのIT社長がそうなんだ、、と残念な気持ちになった。
その『パラサイト〜』で登場する豪邸から連想したのか、前に手に入れていたこの『誘拐の日』を引っ張り出した。表紙の感じがまさにそれ。映画では半地下の家族が家庭教師に行くのだけれど。
なんとも奇妙奇天烈なストーリーである。ある理由のために大金が欲しかったミョンジュンは、豪邸に住む少女を誘拐して身代金を要求しようとする。車でその邸宅に着いた途端、急に飛び出してきた人物を轢いてしまう。思わず車に乗せて連れ帰ったが、それはなんと誘拐しようとしていた少女だった。そしてその少女が事故のせいか記憶喪失になっていてー。
こんな出来過ぎの偶然なんてあるかいな!っていう展開が多く、読み始めは「これは何なんだ」と思いつつも、予想がつかな過ぎて先を読むしかなくなる。文体的にどうとか、文学性があるかとかはともかく、日本人では到底考えつかないような展開にさすがの韓国(文学だけでなく文化全般)だなぁと納得する。まさにジェットコースターさながら上に登り下に落ちという、最後まで二転三転するストーリーに興奮した。
ミョンジュンのような人が誘拐犯になるなんてと呆れる。頼りなさ、鈍臭さ、愚鈍さはもうどうしようもないんだけど、子供を見守る姿や他人への振る舞いには人間としての真の優しさを感じる。残忍な殺人が起こっているのに、ユーモラスであり、また読み終えたあとにはあたたかい気持ちになれる。
こういう韓国ミステリは初めて読んだ気がする。以前読んだク・ビョンモ『破果』とはまた違うし。とりあえず、2023年に読み終えた最後の本となった。今年も素晴らしい読書が人生に潤いを与えてくれますように。