『破果』ク・ビョンモ 小山内園子/訳
岩波書店 2023.4.29読了
なかなか圧倒される文体である。一文もやや長めで、ひとつひとつの描写がとんでもなく細かく、豊富な比喩表現が多用されている。他人を見る観察眼が鋭い。著者のク・ビョンモさんは、文章に関して「読みやすくしないこと」を決めているという。
殺し屋を営む爪角(チョガク)は、65歳にして現役。しかし年齢からくる衰えを感じている。身体的な部分だけではなく精神的にも「老い」を感じる彼女は、自身の仕事にどう向き合っていくか、そして生き様をどう決着づけようとしているのか。
タイトルの『破果』は、韓国語で「傷んでしまった果実」と「女性の年齢の16歳」という意味があるのだそう。桃などの果実が旬なのはあっという間で、それは人間、特に女性のことをも仄めかしている。
いつから人は老いを感じるのだろう。身体が思うように動かなくなったり、痩せにくくなったり、白髪が生えてきたり、老眼が始まったり。そんな身体的なところから始まるが、一番はそれに伴う心境の変化なのだろう。忍び寄る老いの気配に寂しさと哀愁めいたものを感じながら読んだ。女性もののハードボイルド小説といえる。爪角はおばあちゃんといえる年齢だけど、粋でカッコいい。そして何歳になっても女性であることには変わりはない。
韓国の小説は久しぶりだ。やはり頭をガツンと殴られたような強烈なインパクトを残す。「こう来るか」という展開が多くて驚いたりなるほどと唸らされる。これは小説だけでなく、映画でもそう。数年前に『半地下の家族』を観た時も感じたし、韓流ブームの先駆けの『猟奇的な彼女』を観た時にもそうだった。音楽にしてもそう。韓国文化は世界を席巻している。