書に耽る猿たち

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『アンネの日記 』アンネ・フランク|死んでもなお人々の心のなかに生き続ける

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アンネの日記 増補新訂版』アンネ・フランク 深町眞理子/訳

文藝春秋[文春文庫] 2022.12.13読了

 

日読んだ『あとは切手を、一枚貼るだけ』という小川洋子さんと堀江敏幸さんの共著作品(2人の書簡小説)で、小川洋子さんのパートで何度も登場したのがアンネの日記である。久々に読みたくなった。読むのは3回目である。1度目は子供の頃でほとんど覚えていない。

読したのは大人になってからで、その時はアンネの純真無垢さ、大人の仲間入りをする思春期の想いが溢れていたことを覚えている。そう、ユダヤ人迫害、人種差別に対する実態を知るための日記としてだけでなく、ある少女の思春期の成長を記憶した書物でもある。

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ンネ・フランクはドイツのフランクフルト生まれで、ドイツ系ユダヤ人家族として育つ。ヒトラーによるユダヤ人弾圧政策を逃れて、オランダに移る。「隠れ家」で過ごした約2年の間にアンネによって書かれたこの日記は、日記文学の最高峰と謳われている。

 

愛なるキティー

で始まる日記。キティーという友達を空想のなかで作りあげて彼女に話しかけるように綴っていくアンネ。これって実はすごく良い考えだ。誰かに聞かせるために書くようにすると、自分だけの記録に留めるのに比べて、読みやすくわかりやすく書くから自然と良いものになる。

記を書き始めの頃は、まだ隠れ家での暮らしを楽しむようで、文面からも戦争下とはあまり感じられない。学校での出来事を懐かしむところでは、先生や友達とのやり取りが鮮やかに想像できる。アンネは「ここにいるわたしたちは、なんとしあわせなのでしょう(124頁)」と本心で思う。多くのユダヤ人が連行される中、なんの心配もなく、食べ物も暮らす場所もある自分達家族は幸せだと話す。それでも、日を追うごとに少しづつ変わっていく。

1943年10月30日の日記には、悲しみに陥ったアンネは、キティーに向かって弱音を曝け出す。本当は、大好きなパパに甘えたい、理解してほしいのに、根っからの感情的・攻撃的な性格から素直になれない。誰か自分を愛してくれる人から一度でいいから励ましてほしい。苦しみの中、それでも最後にはキティーに約束するのだ。「どんなことがあっても、前向きに生きてみせる、涙をのんで、困難のなかに道を見出してみせる」感情が爆発しそうになっているアンネはキティーに本音をぶちまけることで冷静になる。

ェルターに隠れて一歩も外に出られない暮らしをしているアンネが、こんな風に自分を見失わずに過ごせたのは、ペーターの存在も大きい。フランク一家とともにこの隠れ家に住まうファン・ダーン夫婦の息子だ。最初はなんの感情もなかったアンネとピーターが徐々に心を通い合わせ恋仲になる。思春期独自の女の子の想いと戸惑いと葛藤が、読んでいてドキドキした。

んなにも真っ直ぐに瑞々しく自分の想いをさらけ出し、周りの人々を鋭く深い洞察力で見つめ、自分ががどう生きるかを模索するアンネ。語彙力も表現方法も優れている。これをわずか13歳の少女が書いていたなんて信じ難い。日記でのなかでも将来の夢はジャーナリストまたは作家と書いていた。アンネは15歳という若さでその生涯を終えてしまうが、もし生きていたら素晴らしい文筆家になっていたに違いない。しかし「死んでもなお生き続けたい」と誓ったアンネは、この日記とともに人々の心に生き続けるのだ。

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