書に耽る猿たち

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『ガリバー旅行記』ジョナサン・スウィフト|旅行記・冒険譚と名のつくもので間違いなく一番おもしろい

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ガリバー旅行記ジョナサン・スウィフト 柴田元幸/訳 ★★

朝日新聞出版 2023.12.27読了

 

さい頃に『ガリバー旅行記』を読んだ記憶はある。とはいえ、大男が地面に横たわり、その周りを多くの小人たちがぞろぞろ歩いてるような挿絵を覚えているだけと言った方が正しいかも。

 

の小人たちが住む国の場面しか印象になかったが、実はそのエピソードは旅の一つ目の国「リリバット国」での出来事だったのだ。タイトルに「旅行記」とある通り、ガリバーが訪れた各地のことが書かれている。小人たちが住むこの国(挿絵)のインパクトが強すぎた。大きさは人間の12分の1だ。

 

んと次にたどり着いた「ブロブディングナグ国」は反対に自分が小人と見紛うような、12倍の大きさの怪物が暮らす国だった。巨大な乳房を見て嫌悪するガリバー。女性の胸をめぐる凄まじい描写を読むと、世に美しいとされているものは実は拡大してみると隠れた醜さがあるのだろうという警告が見て取れる。これをたいていの男性が好きな乳房で例えるのがもうスウィフトらしい。とりあえず、この小説はこうした皮肉や風刺が効いていていちいち笑けてくる。

 

初は自分が大男になった小人の国、次は自分が小人になってしまった国。この小説は4部構成だから、では残りの2つの章ではどんな国を訪れるのだろう?わくわくが止まらず、楽しみながら読み進められた。どの章にも明確な設定があり、それが私たちが生きる上での道すじになり、また警告になっている。

 

の国にも王様がいて、政治を司る機関がある。これは統治する上で必要なものであるから、国があるとしたら必然のことなのだろう。アイザック・ニュートン微積分や、ジョージ・オーウェルの思想(『1984年』のニュースピーク)にも触れられていて、数学的または近未来的見地からも興味深く読める。

 

間の本性ゆえに、いかなることを為すのか、それを未踏の地に住む生き物から知る。最終章まで読むと、この旅行記を通してガリバー(著者スウィフト)が何を訴えたかったのかがわかるし、それがすとんと落ちてくる。最後の国・フウイヌム国は、あらゆる美徳に富んだ賢明にして徳高い地、理想郷である。しかし理想だけに現実にはあり得ない国。

 

間嫌いなのに、人間であることを諦めつつもそれとなく楽しんでいるガリバーはスウィフト自身なのだろう。

 

日読んだブラム・ストーカー著『ドラキュラ』もそうであるが、読んだ気になっている名著や今さらという読まず嫌いな本があれば、片っ端から読むべきだと確信した。世界でこんなにも長い間読み継がれているんだから名作に間違いはない。

 

的好奇心が刺激され、ストーリーも奇想天外、小説を読む喜びを思いっきり享受できた。こんなにもおもしろい小説だとは思っていなかった。300年前に書かれたとは思えない新しさ、いや、人間の変わらなさと言うべきか。訳者の柴田元幸さん言うところの「いかなる地理にも時代にも属さないどこにもない場所を描いているのだから、古びることはありえない」との文章に納得だ。子どもよりも大人にこそわかりみが深い冒険譚だ。旅行記、冒険とタイトルにある作品で、間違いなく1番おもしろい。スウィフト、只者ではないな。バルザック同様に稀代のストーリーテラーだ。

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