書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2023年に読んだ本の中からおすすめ10作品を紹介する

f:id:honzaru:20231222073942j:image

(2023.12 東京都台東区にある古書店「フローベルグ」の書庫 この洞穴みたいな空間は地下に続いていて、乱雑に積み上げられた本たちに囲まれた書店員さんがなんだか羨ましくなった)

 

もうこんな時期に来てしまった。一年があっという間だという陳腐な言葉にもほとほとうんざりする。このブログを続ける限りは年に一度はこの企画をやろうと決めているので、今年も、昨年2023年に読んだ本の中から個人的なおすすめ10作品を読み終えた順(ランキング形式ではなく)に紹介しようと思う。

 

第1作目

ネイティヴ・サン アメリカの息子』リチャード・ライト

2023年に入って最初に読み終えた1冊。これが今年のベストになるだろうなという予感がして、まさにその通りになった。こんなに感動できる小説にはなかなかお目にかかれない。今でも読んでいる途中の興奮・熱狂、恐怖、読み終えた時の感動・ひとすじの光は忘れられない。いま思い返すと、大切な作品のひとつ、加賀乙彦さんの『宣告』を読んだときの感動に近いかも。

honzaru.hatenablog.com

 

第2作目

『しろがねの葉』千早茜

直木賞が年に2回もあることに価値が損なわれるんじゃないかと納得がいかないけれど(いつもいつも思っている)、まあ仕方ないか。世間から本の興味が薄れてしまう方がもっと嫌だし。この作品はまだ記憶に新しいと思う。銀世界における音、匂い、手触りを静謐な気持ちで感じとれ、千早さんの健気な文章が胸を打つ名作だ。

honzaru.hatenablog.com

 

第3作目

『望楼館追想エドワード・ケアリー

なんて愛おしいこの世界よ。ファンタジー作品をこんなに気に入るのは珍しいのだが、うっとりとこの世界観に没入した。ケアリーといえばの〈アイアマンガー三部作〉よりも、私は全然こっちのほうが好き。また読み耽りたい。

honzaru.hatenablog.com

 

第4作目

『黄色い家』川上未映子

川上未映子さんの作品は大好き。一番好きなのは現段階で『夏物語』なのだが、それに次いで好きな小説だ。圧巻のハラハラした展開とお金に狂う女たちの凄まじさ。何しろラスト数ページは涙で霞む。いやもう、未映子さんに関しては、彼女自体が作家としても女性としても人間としても憧れの対象なのだ。

honzaru.hatenablog.com

 

第5作目

『同調者』アルベルト・モラヴィア

全く期待していなかったのに、かなりおもしろかった作品。さすが光文社古典新訳文庫だなと思わせるラインナップと名翻訳者だ。幼少期に犯罪を犯してしまった主人公が、自分のなかにある「異常さ」とどう向き合うのか、徹底的な自己分析をする。同調するという真意とは。そんなに知られていない作品だと思うが、強く薦めたい一冊だ。

honzaru.hatenablog.com

 

第6作目

『街とその不確かな壁』村上春樹

これはもちろん期待していた。そして残念ながら期待を上回るほどの作品とは思えなかったのだけれど。。それでも、さすが村上春樹さんが書いたものには人を虜にさせる罠がある。これは私だけではないだろう、彼の文体には麻薬が潜んでいて、浸かるだけでもう打ちのめされて酔ってしまうのだ。

honzaru.hatenablog.com

 

第7作目

『フリアとシナリオライターマリオ・バルガス=リョサ

正直なところ、誰にでもおすすめできる作品ではない。現にそんなに売れてもいないだろう。でも個人的にドンピシャで、小説を読む喜びを堪能できる。喜劇と優しさが同居する、リョサ作品のなかでは読みやすい方に分類されるだろう。

honzaru.hatenablog.com

 

第8作目

『心淋し川』西條奈加

直木賞を受賞した連作短編集である。読み終えてしばらくは身体が火照って、良いものを読んだなという充足感と多幸感に包まれた。西條さんの別の作品も読みたくて手元に一冊準備してある。誰にでもおすすめできる正統派の良書である。

honzaru.hatenablog.com

 

第9作目

『サキの忘れ物』津村記久子

本を読むことはどういうことか、何のために本を読むのか、そんなことを立ち止まって考えることが出来た。短編なのに、読み終えた時の満足度、高揚感はとてつもなく大きい。はてなブログさんに、HPのトップ記事として掲載いただいたこともあって、多くの人にブログ記事を読んでいただけて嬉しかった。

honzaru.hatenablog.com

 

第10作目

ガリバー旅行記ジョナサン・スウィフト

いままでこの小説をちゃんと読んでいなかったことが悔やまれもする。しかし逆を返せば、この機会に楽しみを知りえたことが喜ばしいというべきか。最初から最後まで本当におもしろい作品だった。天才的なストーリーテラー、スウィフト恐るべし。

honzaru.hatenablog.com

 

 

悩みに悩んで『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』を入れなかった。このブログのタイトルを「おすすめ」としているが、私は決してこの本をすすめたいわけではないんだよな。ただただ「通電の松永」が衝撃的で、世の中にはこんな人も実在したのだということを知って欲しかった。やれやれ、今でも思い出すと気分が悪くなる…。

 

とりわけ嬉しかったのが京極夏彦さんの百鬼夜行シリーズの新刊が17年ぶりに出たこと。脇道に逸れる蘊蓄のオンパレードがただひたすらに嬉しかった。17年も経つと、自分が好きなキャラクターが変わることに驚いた。自分も歳を重ねるからな。

 

 

2023年に読了したのは141作品(冊数としては160冊)で、ここ数年では少なめだった。じっくり読みたいと思える本は時間をかけていることもあるかもしれない。それにしても、10作品全てが小説というのが偏り過ぎているよなぁ。圧倒的に小説を読む割合が多いから当然なのだが、今年はもっと他のジャンルにも積極的に手を出していきたい。

 

今年も素晴らしい作品に出逢えることを楽しみに書を選び、読み耽ろう。また皆様にも書を読むことの喜びを存分に堪能いただけますように。

honzaru.hatenablog.com

honzaru.hatenablog.com