書に耽る猿たち

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『ビトナ ソウルの空の下で』ル・クレジオ|雄大な空を飛ぶ自由な鳥のように

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『ビトナ ソウルの空の下で』ル・クレジオ 中地義和/訳

作品社 2022.11.3読了

 

ーベル賞作家、ル・クレジオさんの小説を初めて読んだ。彼はフランス人であるが、この作品の舞台は韓国・ソウル。ソウルと聞いただけで、先日の梨泰院の事故を思い出し辛くなる。クレジオさんはアジアの中でも韓国に独特の見解を持っており、特に若い女性にとって生きにくい国だとしている。あんなに煌びやかに見える韓国なのに。

舎に住む18歳になるビトナは、ソウルに住む伯母の助けを借りて大学に通っている。伯母の娘のパクファとはうまくいってない。ある本屋の書店員から、病で外出ができない「サロメ」という中年女性のもとで物語を語るという役割を課せられたビトナ。動けないサロメのお世話をするのではなく、語り部として雇われた。ビトナが語る物語は、古い小説なのか、それともビトナが作り出した物語なのか。作品のなかで、現実なのか作り物の中にいるのかわからなくなる。

ーベル賞作家の割には、クレジオさんの作品は日本ではあまり読まれてないように感じる。他の本もこの文体であるならば、ストーリー性がほとんどなく、とりとめもない一人称で語られているのがその理由なのか。確かに物語性は薄いから、なかなかの小説好きでないと手に取らないかもしれない。私としては結構気に入った。静謐な中にも、凛とした佇まいが文中に潜んでいる。雄大な空を飛ぶ鳥のように、自由を求める希望が込められていると感じた。

の本は、先日神保町ブックフェスティバルで作品社ブースのバーゲンセールで購入したもの。ほぼ新品に近いのに、定価2,200円(税抜)が1,000円で購入できてかなりお買い得だった。東京創元社と河出書房には狙い目の本が残念ながら見つからなかったけれど、また来年も行こうと思っている。